星一は、成人式で撃沈した、大森の結果も知らず、慣れない手紙を何度も書き直しながら夕食後から夢中で書いていた。
出来の良い久しぶりに帰って来ている兄、一樹に習っていたが、なんせ女性より勉強、仕事といった感じなので、
当然、別れの手紙なんかの見本にもならなかった。
「そうゆうのは、自分の気持ちで書くもんだよ、見本や習うことじゃないよ」と、てんで話しにならんかった。
「解ったよ、兄貴に聞いた自分が悪かった」そう言って部屋に籠って1時間が過ぎようとしていた。
拝啓、鈴木可奈様
この度は、折角縁が合って出会ったのですが、
どうも自分の心がおかしくて加奈のようにやさしい女性が、
自分のような何の取り柄もない男と、この先、生きてゆくことは凄く罪な気がします。
出会って4ヶ月が経ちますが、自分は何も加奈にしてあげられないことが心苦しくて、
今も、会うことさへ躊躇してしまうんだよ、
クリスマスの時の加奈の楽しそうな顔を見たとき、
正直、加奈を守っていける自信がなく、
きっと、悲しい思いをさせてしまうのではないかと、
それに加奈は、今、準看になって次は正看になって多くの人を救っていく使命があると思う・・・・。
星一はこうして、自分なりに書き綴って加奈を思い浮かべた。
書いてあることも星一の気持ちだったが、加奈と会った日に出会った女性から受けた衝撃は、
忘れる事も出来ずそんな気持ちのままでは加奈との付き合いも無理だと思った。
追伸 同封の雪の結晶のペンダントはアメジ・・・何とか言う赤い石で結晶の形を覆っているらしい、
加奈の誕生石だよな、僕からのプレゼントとは思わず大切にな、
そんなに高いものじゃないし、どうしてもいらないなら、捨てちゃってもいいよ。
ごめんよ、本当に・・・・。立派な看護婦に成って下さい。
と最後を締めくくって、星一は、自分の中では完璧だと思ったが、
それはとても一方的過ぎて、加奈の怒りさへ呼ぶような文面に気付かなかった。
慣れないことをした星一は、何か一仕事した感はあったが、
次第に湧き上がる空しさと、悲しみが何なのか判らなかった。
そして、雨が上がりその洗い流された後の冷え切った新鮮な空気を感じる為に外へ出て、
流れて行った雲の後からは、1段と輝きを放っているかのように、数えきれない星を見上げオリオン座を探した。
冷たい風がさらに冷たく感じたのは体の中をすり抜けた、さよならの言葉だった。