風と香りの中で 74

2人は、完敗した選手のように肩を落とし寒く暗い夜の道を歩いて、車に戻った。
車の中でも暫く沈黙が続くと、「なあ!」と殆んど同時に2人は、声をかけた。

「ひろちゃんから、話せよ」と星一が言うと「いいよ!せいちゃんからいいなよ」と二人は譲りあった後、
「あの時な、コーヒーを持ってきたあの娘・・・。」星一の方から、カレーライスを落とした事ばかり気になってたが、
今、何かに気付いたかのように話した。

「何か、言ってなかったか?」
「そう言えば、向うばかり気になってけど、何か言ったのは判ったけど、声も小さかったけど、何か、・・・ますか?
とか、って聞こえたよ」
「だろ 何を言ったんだろう?」
2人は、急にその聞こえなかった言葉が気になった。

「戻るか?」と弘幸が尋ねると「まさか、いいや!結局、俺には、縁がない女性なんだよ」
とフロントガラス越しから空を覗き込むように見つめてた。

「いいのか!それで、加奈さんとけじめを付けたのは男として当然だと思う。
それも、あのウエイトレスに、気持ちを伝える為だろ」
弘幸は、真剣な表情で、前を注意しながら淡々と話し始めた。

星一は、覗き込んだまま何かを探してる様子だったが、弘幸の話は聞こえていた。
「いい返事が、貰えないかも知れないから、何も伝えなくて諦めるのか?」星一は、黙ったままだった。

「後悔するぞ!それに、せいちゃんはそんな性格じゃないと思ってたよ」
「判ってる、後悔はしたくない、でも、こと女性の事となると・・・苦手だよ!」
星一は、シートにもたれ掛けた。

「覚えてるか、中学の時」弘幸が尋ねる「何か、あったけ?」

「覚えてないかなー、あの頃、大人が読む女性のヌードの載ってる週刊誌を買うのに、
せいちゃん、後悔したくないって本屋の人が、おばあさんの店に行って、勇気を出して買ってくるぞーと・・・。」

「そうだ、あったなーそんな事、で、ドキドキして戻ってきたんだ。
買えたときの喜びは今、思い出しても、やった感あったもんな、
で、どうしたんだっけ?
俺、それ見てないぞ、ああー!そうだ思い出した。
家の親とあってそのまま、ひろちゃんと別れて・・・。
遠い昔のことだ、でも、それと、今の気持ちとは違うような・・・。」

「同じだよ、せいちゃん 何かをする勇気と後悔しない人生!それしかないいよ、
今の、せいちゃんには・・・。」
星一は、また、何かを考えてるように黙りこんだ。
家の前に着いて、星一は、じゃあ!と降りて、弘幸を見送ると、暫く空を眺め家に入っていった。