「時と共に優しく」カテゴリーアーカイブ

時と共に優しく 8

今日までの時の中でくもとの別れ、
父親の病によって早い別れその辺りから、
母親も姉妹も椋への接触も変わってきた。

それは、父親の思いでもあったのだ、
「姉妹は、いつまでも仲良くしてないといけない、
この世界で唯一血が繋がっているのは、
他にいないからと、助け合って生きて行くんだぞ」
それが最後の言葉だった。

その言葉に何かを感じた姉達も、
椋には優しくなって行ったのだ。
椋は、それが全て満たされた生活でもなかった。

幼い時に身に付いた性格じゃなく性質は1人で居る事の安らぎが根付いていた。
絵を書いたり心の中で歌う事が楽しみだった。
中学・高校と親しい友人も作ることなく自身の思いを詩に綴り、
時にあまりにも虚しく1人でカラオケに行っては、心の底から声を出した。

19歳の時に書いた。
”私は星になる”のタイトルの内容が気に入ったのか、
強志の家に出入りしていた時に強志の母親から習ったピアノで曲を付けていた。

時と共に優しく 7

「よし!これでもう安心だよ!」
強志は、椋とくもを部屋に入れて、
くもと椋が横になれるようにタオルケットを敷いて
「家の親が、椋ちゃんの家に電話して事情を話したらいいってことでな、
くもと一緒にいればいいよ、
椋ちゃんもここで寝ていけばいいしな」と微笑んだ。

「うん!ありがとう、よかったね!くも」
椋は、家に居るよりここに居る事がとても快適に思えた。
そして、くもの横で歌を歌っていた。

「むくちゃん、綺麗な声だね」
強志は、椋の笑顔とその声に自分が行動した事を嬉しく思い、
その声は深く心に刻まれた。

朝方、くもは大きな声で鳴きおしっこを漏らすと、
静かに息を引き取った。
ありがとう!
とくもの声が聞こえた気がしながら、
寝る事もしないでズッーと傍に居て話しかけていた椋は、
その最後の鳴き声と共に声を出して大泣きした。

子供である子供らしく耐えていた思いが全て溢れ出し、
くもに覆い被さりその涙はくもの毛を濡らしていた。

強志は隣の部屋から椋の泣き声と共に目覚め、
急いで椋の居る部屋に入って行った。

「むくちゃん・・・。」
声をかけるとゆっくりと体を起こし涙で濡れた顔を向けながら
「くもはね、死んじゃったよ。
ありがとうって言ってた、おにいちゃんありがとう、
くもは最後にこんな暖かいとこで死ねたから、
きっと幸せだよね、うわっーん」
と泣きながらうつ伏せた。

強志の後ろに両親が立っていた。
1人っ子の強志が連れてきた可愛らしい女の子が、
泣き伏せている様子を見て思わずもらい泣きをした両親は、
強志を後ろから押して次にやらないといけない事を指示した。

動物用の火葬場は、
そんなに近くにはなかったが強志の両親が探し連れて行った。
「おにいちゃんの、おとうさんとおかあさん優しいね、いいなぁ!」
心の底から感じた事を素直に告げた。

椋は、自身の閉ざした心を強志の家では、
まるで強志の妹の様にしてくれたのか、
解き放たれた心で良く遊びに来ていた、
が、数年もすると強志は、引っ越す事になってしまったのだ、
椋は既に小学校も卒業で強志は既に20歳になっていた。

「椋ちゃん、寂しくなるけど頑張ってな、あの詩はいいと思うよ」
妹の様に大迫家に入り浸り、
絵を描いては強志が評価してみるみる内に上達して行くその絵を
大迫家の壁に額に入れて飾っていたくらいだった。

椋は、泣かなかった。
「何かあったらこれを開けてみるといい」
そお言われて手にした綺麗なお守りを握り締めた。

時と共に優しく 6

それぞれの親達の間では、
ひとつの事件として大変な騒ぎにもなりながら、
椋は、七針も縫った頬の傷を気にする事もなく、
強志が、くもに餌を与えてくれてた事、
自分とくもを助けてくれた事が嬉しく強志を唯一自身の心の中に刻み込んでいた。

くもが、助からないウィルスにかかっている事も知らずに月日は流れていたが、
ついにその時がきてしまった。

「もう、立たなくていいよ!」
ファーファーと下を出したまま苦しそうにしているくもは、
自力で立つ事も出来なく椋は、綺麗に整えた茂みの中で
横になりその傍らで横になっているくもを見詰めていた。

「はい!お水ね!」
と手の平に乗せた水を口元に寄せ飲めない舌に当ててあげた。
そうして何度も体を撫でながら「がんばって!」と励ました。

時折、くもは、ぎゃーと大きな声で鳴きまた静かに眠る。
椋は、子供ながらに、もう、だめだろうと感じていた。

泣かないと決めた時から、
強く生きる事だけで自身を維持していた無意識は、
溢れる涙の止め方を知らなかった。

夕暮れに強志は、公園にくもの餌を持って来ると
茂みに近付き椋に気付くと驚いた。

「むくちゃん、何してるの?もう、日が暮れるよ」
「おにいちゃん、くもが、・・・。」
振り返った椋の涙に気付くと、
事情を察したのか、強志も茂みの中に入って行きくもの、様子を見た。

「もう、立てないのか?」
「うっっん!」
涙と鼻水を拭う事もなく椋は返事をした。

「でも、もう暗くなるし帰らないと心配するよ」
強志は、くもを撫でながら椋の心配もして目を閉じ考えた。

時と共に優しく 5

大迫強志は買って貰ったばかりの真新しい自転車の乗り心地の為に徘徊していた。
が、公園の前まで来るとその騒ぎに気付き自転車を降り押しながら公園に入って来た時、
椋に長い棒が当たったのを目撃した。

「あっ!危ない」自転車を投げ出し駆け寄ったが数人が猫を追いかけ椋も追いかけ、
その後ろから強志も追いかけた。

「何してるんだ!」
皆が一斉に振り返った時強志は、
椋の顔を見て驚いた。
「血が!」
その声に全員が椋の顔を見て驚いた。

「わっー」と駆け出していくのを強志は、
大きな男子を捕まえて「お前がやったんだよな」と攻めた。

怖くなっていた男子は
「おれじゃあないね」
と強志の手を解こうとしたが何せ強志は、
中学2年で体格はその男子と変わらず手を解く事は出来なかった。

「おれじゃないって・・・。」
「僕は、見ていたんだ、お前が棒を振り廻してあの子に当てた所をな」
「んっっ!ごめんなさい、そんなつもりなかったのに、
避けないから当ったんだよう!」少し半べそ状態で訴えたが
「お前たち、男だろ何てひどい事をするんだ!」
強志は、大きな男子に怒鳴った。
椋の哀しそうな顔を横目で見ながら・・・。

時と共に優しく 4

数日後、公園に数人の男の子たちが茂みに集まり騒いでいるのを見た椋は、
急いで近寄っていった。

「何だ!おまえ!」と体の大きなその男子は、
不思議そうに見ながら声をかけると、
「さきさかの妹だよ!」と答えた。

「何だよう!何か用か」椋は、黙ったまま佇んでいた。
長い棒を持った男子は「邪魔だから、あっちへいけよ!」
「あっちへ行けよ!」
と隣に居た男子も続けて同じ事を言うと、
茂みの中から数人の男子が出てきて
「おい!こんなもんがあったぞ!」と椋の書いた絵が数枚と、
公園に咲いていた沢山の小さな花と椋の茶碗を持って出てきた。

「何だそれ、下手くそな絵だなあ」と破り捨て、
1人の男子は、「ここであの猫を飼ってたみたいだ」
と茶碗を投げ捨て、ガシャンと割れてしまった。

椋は、震えていた哀しみと怒りがその小さな胸の内で鼓動が早く高く抑えきれない気持ちが・・・。
「おい!早くあの猫を見つけて退治しよう」
男子達は、公園を走り回り探し回っていた。

「くも、出てこないで!」椋の願いも思いも叶わず、
くもは、椋を見つけるとにゃーと駆け寄ってきた。

「あっ!いたぞ!」
男子達は、再び椋の周りに集まって来た。
椋は、慌ててくもを抱き上げ
「くもに、何するのよ!」大きな声で尋ねた。

「そいつは、公園を荒らす悪い奴だから、俺たちが退治するんだ」
「くもは、何もしてない!」
「ダメだ!もう、俺達の裁判で決まった事だから」
「それで、くもをどうするのよ」
「死刑に決めた。」
体の大きな男子は、長い棒を片手で持ち上げ一振りして見せた。

周りの男子は、手に石の様な物を持っているのが見えた。
「やめてー!くもは、何もしてないよ」
椋は、真剣な眼差しでその男子と対峙し抱えられたくもは、
にゃーと何度も鳴いていた。

「その猫を渡せ!」
「いやよ!」
絶対に守ってあげるからと椋は、胸の内でくもに言っていた。
その瞬間、大きな男子が長い棒をふり廻した時に椋の頬をかすめ、
「キャー!」
椋は、その痛みと共にくもを放してしまった。

くもは、茂みに走った。
椋も走った。
自分のその痛みを抑えてみるみる内に血が流れ出て来たが、
くもを守ろうと気にもしなかった。