時と共に優しく 6

それぞれの親達の間では、
ひとつの事件として大変な騒ぎにもなりながら、
椋は、七針も縫った頬の傷を気にする事もなく、
強志が、くもに餌を与えてくれてた事、
自分とくもを助けてくれた事が嬉しく強志を唯一自身の心の中に刻み込んでいた。

くもが、助からないウィルスにかかっている事も知らずに月日は流れていたが、
ついにその時がきてしまった。

「もう、立たなくていいよ!」
ファーファーと下を出したまま苦しそうにしているくもは、
自力で立つ事も出来なく椋は、綺麗に整えた茂みの中で
横になりその傍らで横になっているくもを見詰めていた。

「はい!お水ね!」
と手の平に乗せた水を口元に寄せ飲めない舌に当ててあげた。
そうして何度も体を撫でながら「がんばって!」と励ました。

時折、くもは、ぎゃーと大きな声で鳴きまた静かに眠る。
椋は、子供ながらに、もう、だめだろうと感じていた。

泣かないと決めた時から、
強く生きる事だけで自身を維持していた無意識は、
溢れる涙の止め方を知らなかった。

夕暮れに強志は、公園にくもの餌を持って来ると
茂みに近付き椋に気付くと驚いた。

「むくちゃん、何してるの?もう、日が暮れるよ」
「おにいちゃん、くもが、・・・。」
振り返った椋の涙に気付くと、
事情を察したのか、強志も茂みの中に入って行きくもの、様子を見た。

「もう、立てないのか?」
「うっっん!」
涙と鼻水を拭う事もなく椋は返事をした。

「でも、もう暗くなるし帰らないと心配するよ」
強志は、くもを撫でながら椋の心配もして目を閉じ考えた。