向坂 椋(むく)はまだ、小学校に入ったばかりの7歳だった。
2人の姉は既に高学年で仲が良かったが、
椋の事はあまり相手にせずにいつも1人で居た。
「わたし、むくの事嫌いだよー、わたしも、だっていつも汚いんだもの」
椋は、黙って絵を描いていたが、姉の会話は良く聞こえていた。
まだ、幼い椋の心はそんな会話を深く刻み込んでいたのか、
2人の姉とはいつも距離を置いていた。
それは、無意識にそうさせていたのか自身の気持ちの中でそうしていたのかは判らなかった。
が、そんな、椋に姉たちの偽りの話しを信じていたのか母親は、椋に辛く当たっていた。
椋は、その度に只、「ごめんなさい!」と誤るだけで何故、叱られたのかも判らないまま、
月日が過ぎてもそれは、変わらなかった。
ある日、椋は1人でブランコに乗っていると、
何処からか聞こえて来る猫の鳴き声に
「何処に、居るの?」と辺りを探し回っていた。
小さな植え込みの茂みの中を覗くと小さな白い猫が、
うずくまるように鳴いていた。
「おいで!」白い猫は椋を見つめるだけで、
逃げることもしなかったし寄って来ることもなかった、
椋は、来ない猫に一生懸命話しかけついには、
自分もその場に寝そべって微笑みながら何度も呼んだ。
すると、白い猫はフラフラと椋に寄ってきた、
子猫でもないその猫は何日も食べていなかったのか痩せこけていた。
椋は、驚かさないようにジッと間近に来るまで待っていた。
猫はそんな椋に危険がないと感じたのか椋の顔に顔を摺り寄せ
にゃーと鳴きながら何度も摺り寄せ、その場に寝そべった。
「お腹空いてるの?」椋は、猫のその体型を見て言った。
椋は、その汚れた猫の汚れが顔に付いてるとも気付かずに
「ちょっと、待っててくれるぅ」と体を起こし、家へと急いだ。
勿論、その白い猫も椋の後ろに付いて走ったが、
思うように走れなかったのか途中で止まり椋を、
にゃーと鳴きながら見送った。
椋は、寝そべった時に付いた、
土の汚れも気にせず早くその猫に何か食べさせてあげようと
その気持ちしかなかった。
家に着くと自分のおやつと冷蔵庫から牛乳を取り出し、
いつも使っている自分の茶碗を持って出て行こうとした所を、
1人の姉に見つかってしまった。
「むく、何してるのそれ持ってていけないんだよ、ママに言うよ。」
椋は、構わず急いで出て行った。