風と香りの中で 56

可奈は、机に広げた便箋を見つめたままどれくらい時間が過ぎていったのか、
広げた便箋の横にはペンダントが綺麗に置かれていた。

どうして?何度も胸の中で思案しながら、何度も星一からの手紙を読み返した。

次第に怒りと共に涙が溢れて来ては、何がいけなかったのかとその怒りは自分にもぶつけていた、
酷いよね、嫌いになったとか、好きな人が出来たとか言ってくれた方がよっぽどましなのに、
じゃあ、何がいけないかったのか判んないじゃないのよ、

滲んでいく文字を、忘れるまでにどれだけ掛かるのか、可奈は、悔やむところは見当たらない、
むしろこれから2人で、いっぱい思い出を作って仕事も頑張って星一と歩んで行くのだと、
そして、良きパートナーとして生きていくことも決心していた、なのに何故、こんな手紙一枚で・・・。

話をして貴方の声を聞かせてよ。

悲しみは苛立ちに変わり可奈は、抑えきれない気持ちをベットにうつ伏せに倒れこみ、
何度もベットを叩いた気が済むまで溢れる涙が飛び散るほどに、そして、いつの間にか、静かに眠っていた。

乾かない涙の筋が窓から差し込む夕日に照らされ輝いているのを、
見る者は誰も居ない静かな部屋の中で、子供のように寝息を立てていた。

「可奈、可奈、可奈・・・」誰かの呼ぶ声が聞こえる、真っ白な箱の中で笑っている誰かが、
手を差し伸べ可奈は、そっと手を差し出してその手を掴むと、とても柔らかく暖かかった。

「貴方は誰?」可奈は、良く見えない姿を、目を凝らして見続けると
「僕だよ!僕を作ってくれてありがとう!」可奈は、驚いた。

それは自分が作った星一に似せた人形だった。
「大丈夫かい!」可奈は、不思議な顔をして「どうして?」と話しかけ
「心配だよ、君の事がね、僕を折角作ってくれて、でも、今日からズット一緒だね」
と、笑った顔が星一だった。

「うそでしょ、だってあの手紙・・・。」
「可奈の心は、可奈の人形の中にあって彼はそれを捨てたりはしないよ。」
「うん!」
「僕は、可奈の傍に居て可奈が幸せになるのを見守ってる。

だから、元気に生きて行くんだよ辛い事は、これからも沢山有るけど生きていくんだ、
彼とは人生のほんの数秒の出来事で、可奈の為に現れた。

そして、僕を作ってくれたんだ。
何故だか判る?今の、可奈のためだ・・・。
きっと、いつか判るよ、だから僕を、大切にしてよね。

可奈の人形にも伝えて置くから・・・。」
「そんなこと出来るの?」
「もちろん、僕と彼女は同じ心から生まれたんだもの・・・ね」
「うん!ありがとう」
「元気が出てきたかい、もし、大丈夫ならここまで来てよ」
もう一度、この手を掴んでよと、可奈は、届かない手を追いかけて更に体を伸ばした所で、ベットから落ちて目を覚ました。

すぐさま、辺りを見渡しあれが夢だったと気付くまでに時間は掛からなかった。

力が入らない状態で、ベットにもたれ掛かり目を閉じてあの人形の言う通りだよねと、
目を開けると机の上の人形を両手に持ち、そっと胸に近付け押し当てた。

「ありがとう!」と微笑んだのだった。
そして返事の手紙を書くことにした。