風と香りの中で 36

加奈は、新年早々先輩達の久しぶりの帰省が重なったのと外泊も出来ない患者が数人居る病室を巡回する夜勤に入っていた。
先輩看護婦は、始め注意しなければいけない所を説明しながら時間を掛け、1部屋づつゆっくりと巡回した。

深夜1時に加奈は、3回目の巡回で1人で病室に入りカーテンを開けひとり1人の患者を懐中電灯で確認し、
時には眠れない患者に「大丈夫ですか。」と声を掛け歩いた。

さほど大きくもない病院だが、深夜ともなれば、その静まり返った中では、
誰もが怖いと思う気持ちはあるのだろう。
しかし、加奈は、それが仕事だった。

怖いなどとは言ってられないが、廊下を歩いていると、
時折聞こえる患者さんの呻き声で背筋に寒気が走り、次第に足早になっていた。

ヒタヒタと何処からともなく人の歩く音、そして、女性のすすり泣く声など聞こえる訳もないこの病院でも
院内に漂う独特の消毒の匂いと薄明かりの廊下は薄気味悪かった。

新年が明けた3日目に休みとなった加奈は、昼過ぎからひたすら編み物を編んでいた。
好きな音楽を聴きながら、星一に渡すためのせいちゃん人形は既に出来上がり手作りの箱の中で横たわっていた。

加奈はそうして自ら作る事を楽しみにして過ごす事が多かった。
クリスマスのお礼にと星一の母親に、毛糸のストールをこれからの自分たちの行方を思いながら編んでいた。

そんな気持ちを星一が知ったのなら、きっと風は止んだのかも知れなかった