風と香りの中で 6

11月中旬は、冬間近なのか、もう冬なのか微妙な時期で夜は既に、
寒く時折強く吹く風は冷たい、思わず体をすくめてしまう。

「今から行くよ、大丈夫!今日の報告な!そう、そう先輩に紹介してもらうって言ってた。
その女性に会ってきたから、迎えに行くよ。じゃあ、後で」と、星一は電話を切った。

日付が変わる少し前、上機嫌の星一は車を運転しながら今日の出来事を、弘幸に話し続けていた。

暫く、走っていると一軒だけ明かりが点いている建物を二人同時に、見つけた。
「喫茶店か?」星一が言うと「そうみたいだ。遅くまでやってんだな!」と、弘幸が答える。

「そこでいいや、なあ!」と星一は、既に車を止める場所を探してた。
「そうしよう、こんな時間じゃ此の辺りにはないかもな」
弘幸は過ごしていく店の中を見つめたが、よく見えなかった。

その店から、そう遠くない路上に場所を見つけると、車を止めて降りて
足早に向かった。吹く風の冷たさが身に沁みる程、車中は暖かかった。

「よく通る道だが、気付かなかったよな、こんなとこに喫茶店があったなんて」
弘幸は、今まで気付かなかったことに少し悔しさがあったような言い方をした。

「何時迄、やてんのかな?」星一は、そー言ってドアを開けた。
カラン、カランと客が来たよと、扉が知らせた。
中に入ると、はぼ満員状態に、二人は驚いた。

外からは分からない中の様子は、まさかの大繁盛「なんだ・・・」と弘幸
「おお!」と星一、二人は顔を見合わせた。

奥に、空いたテーブルを見つけると、二人は辺りを見渡すように席に着いた。

日曜の深夜に、二人はちょっとした事件になっていた。
「ひろちゃん、コーヒーでいいや頼んでおいて」そー言ってトイレに向かった。

星一は、戻ってくるなり「どうしようかな?やっぱり・・・。」
「看護婦見習いだっけ、きっとやさしいと思うよ。」
弘幸は、職業でのイメージでそう思ったのか普通は、そんなものかもしれない。

「せいちゃんが、いいと思えばいいだろうし、まあ、一度付き合っても
いいんじゃないか!」「そうだな・・・。」と言い掛けた所に、
チャリン、チャリンと金属音が近くで聞こえた。

ウエイトレスのその女性は、慌てて落ちたスプーンを拾い上げた。

星一は、その女性を見た瞬間、全身に生まれて初めて感じるその感覚が何であるのか判らずも、
全てが真っ白になってしまった。

ウエイトレスの顔から、すぐさま目をはずすと「別の持ってくるね」とウエイトレスは、
何時ものことのように告げた声に「いいや、別に・・・。」
そー言ってコーヒーを手元に持ってくると、何も入れずに一口飲んだ。

「せいちゃん、甘党じゃなかったけ?」と弘幸は、星一に言った。
大丈夫、今日から、ブラックと言って、熱かったコーヒーを何度も飲んだ。

ウエイトレスは、その様子を見て小さく微笑んで行ってしまった。
二人は、一時間近く居て途中、ウエイトレスの女性は帰っていった。
星一は、その時間を無意識なのか、チェックした。そして二人は店を出た。

「判った、あの店の繁盛ぶり!」星一が、前方を見つめながら言うと
「ウエイトレスの女性!」と弘幸が、すかさず答えた。
せいちゃんと弘幸が声を掛けると・・・。

「付き合ってみるよ、看護婦見習いさんと」何故か、うれしい話だったはずなのにあの時の、
あの一瞬、あの感覚、星一は、弘幸と別れ駐車場から、家に入るまでの間、
寒い夜の空に輝く多くの星を暫く眺め、眠れない朝を迎えることとなった。