風と香りの中で 21

駅に向かう、冷たい風が吹く雑踏の中二人は、手を繋ぐ事もなく並んで歩いていた。

星一も、加奈もお互いの気持ちを知る由もなく
「楽しかったよー、久しぶりに家庭の雰囲気の中で、食事が出来たのやっぱりいいよね、家庭って」
うれしそうに言った加奈に「そっかぁ」と星一は、あまり気のない返事をした。

「・・・・・。」加奈は、星一をチラリと見て言いかけた言葉をやめようとしたが、
「何かね、せいちゃん楽しくなさそだね、何かあったの?何処か、具合でも悪いの?」と心配そうに言いながら、
星一の気のない話し方に加奈は、家を出たときから少し気になっていた。

「悪いところか、別に・・・、頭、そうだよ、俺、頭悪いから・・・。」
と小さく笑って加奈を見たが面白くないよと返した。

「本当に何処か悪いなら言ってね、これでも看護婦見習い、
でももうすぐ準看だよ、教えてね先生にも聞けるからね」とさらに気遣った。

そんな優しい加奈の気遣いや、純粋な思いやりが今の星一には辛かった。
出会いのタイミングなのか、あの夜合うこともなかったら、
そうあのウエイトレスに出会ってなかったら、星一はきっと加奈を、抱きしめただろう。

「大丈夫だよ、きっと」その言葉は何を意味したのか。
切符販売機が見えると、指をさして加奈に教えた。

そんなに、遅い時間でもないのに人もまばらで、楽しそうな男女が、
明らかにケーキが入ってるだろう袋をもって改札を抜けていく、
傍らで星一は何処を見るともなく加奈を待った。

小走りで戻ってきた可奈は「はい!」と、小さな人形と入場券を一緒に差し出した。
「何これ?」と受け取り、紐の部分を摘んで目の位置に掲げた
「それ、私が作ったせいちゃん用のお守り、家族の人に見られると恥ずかしいからね、そのモデルは私よ、似てる?」
そう言って少女のように少し照れながら、微笑んだ。

「ふーん、上手だな加奈より、可愛いし」と見つめてると、星一は加奈に買ったペンダントを思い出した。
「あっ、そうだ忘れてた」「なに?」加奈は、不可解に星一を見た。

「車の中に、加奈に渡すプレゼントをコンソルボックスの中に入れたままだ、とって来るよ!」
と行き掛けた星一に「今度でいい!今度会った時に、今日は、気持ちだけ貰ってくね」と次に会う約束を、
無意識にさせたのだった。

「今度、会うときの楽しみね」と微笑んだ。
「それと、せいちゃんモデルの人形も作ってるから、出来たら渡すね」加奈は、うれしそうに続けた。

「大切にしててね」「わかった!」小さく手触りのいい、その人形は笑っていた。
二人は、改札を抜けホームに行くと人はまばらで、北風が二人を吹きぬけると同時に身を屈めた。

電車が来る放送がホームに響き「せいちゃん、今度休みが合ったとき何処か旅行でも行こうか?」と加奈が、
星一の反応を見ながら尋ねた。

電車が入ってきた音が「そうだな、それもいいかも」と言った星一の声が重なった。
電車に乗り込む加奈の後姿が、何処か淋しそうなのを星一は気付くこともなく向きかえった加奈は、
ドアが閉まる前に「泊まりで、行こうね」と小さく手を振った。

ドアは2人の間を、一瞬に閉まり互いの息遣いも、香りも切り離し加奈の乗った電車を追う事もなく、
星一は深くお辞儀をした。

星一は、何か迷っている心を既に決断してるかのように、
自然と加奈に向かってお辞儀をさせたのかもしれない。

「今なら、何も傷つけることもないよな」!と自分に言い聞かせているように、
誰もいないホームにまた冷たい北風が吹きぬけた。