風と香りの中で 66

星一は、仕事から真っ直ぐ帰ってくると、食事後からひたすらと木彫りをしていた。

すべて自己流なので削り方にルールとかがあるのなら全然駄目であるが、眼の前のナナの写真を見ながら木屑を増やしていた。

時々その塊を持ち上げ眺めたりしてるのだが、意外と難しいもんだなー!
と言いながら中々思う様な形にはなっても居ない、
よし!もう少し頑張るかと再び彫り始めてると、
瑠璃子の声がドアの外から電話だよ!と呼んでいる。

星一は、手を休め判ったと部屋を出て、子機を瑠璃子から受け取り話し始めると、
大森は、「何してるんですか、僕は、残業で今帰って来たんですが・・・。ちょっと行きませんか?」

星一を誘って食事をしたい様子で、「いいよ!ちょうど、休憩しようか」と思っていたところだし、
「休憩?何ですか休憩って、何してんですか?」と何かまた星一が自分に何も教えてくれなく何かしているのが、
凄く気になって尋ねた。

とにかく大森は、星一が、何かする度に、気になって大森の耳に届く時には、
それは過去の話だからと蚊帳の外になってしまうことが多かったからなのか、
新しい話題とかが出た時には、少し残念な気持ちになってしまうのが、大森の性格だった。

「ちゃんと、出来上がったら見せるから、大丈夫だ!」星一は、軽く返した。
「今から、迎えに行きます。待っててくださいよ」そー言って慌てて受話器を置いたのか、
星一の耳にガシャンと大きな音が帰ってきた。

大森が来るまで再び彫ろうと思ったのだが、気分転換も兼ねてか外で待つことにして、
寒い中を大森の来るであろう方向に、ゆっくり歩き始めポケットから、煙草を取り出すと吸い始めた。

最初の煙は吐く息と重なって、どちらがどちらか判らなくスっーと上に流されると風の行方が見えた。
暫く歩いて寒いなーと体が震え始める手前で大森の車が、星一の横に止まり自動窓を空けると、
中から歩いてたんですか、乗ってください!と声を掛け、星一は何も言わず乗り込んだ。

「こないだの、ナイトでいいですよね?」大森は、折角出来た彼女と別れてまでも、
星一が気になってるその女性を見て見たかったのは、後で新しい彼女だと紹介された時に、
又、自分だけ蚊帳の外だったとなるのが嫌だなーとも思っていたのだろう。

「なんだ、それが目的なのか誘ったのは・・・。」星一は、だからと大森を責めたりする事もなく、
「いいよ!そこにしよう」久しぶりに、会えるのかと先日会えなかったことは、良かったのだが、
会いたいとの気持ちもあったから大森の気持ちに従った。

「今日も、居ないって事は、ないでしょうね」
「この時間帯が1番いる確率が高いはずだよ」と星一は、静かに答えた。