風と香りの中で 67

カラン・カランといつもの様に扉は、お客が来たよ!と知らせるだけの仕事をしていた。

店は、思ったより少なく2人は、ゲームの出来るテーブルが珍しく空いていたのでそこに決め腰掛かると、
大森は大げさに辺りを見渡し若い女性などいないことに、もしかして自分をからかったのじゃないかと、
いないですねーこないだも居なかったし「本当はそんな女性はいないんじゃないですか?」と尋ねた。

すかさず星一は、「気付いたのか?」と笑っうと「なんですか、もう」と相当がっかりした様子が伺えたが、
星一は、注文をするとゲームをやり始めた。

大森は、食事をしてないからと、イタリアンの大盛りを頼んだ
「大森君が大盛を頼んだ!」とテーブルの画面を見つめながら呟き「面白くないですよ!」
とそれは、星一の言ったことだけじゃなく、
先日、弘幸と晴香が言ってたことも自分を担いだんだと思ったことが、面白くなかった。

「何でも、今日な、あのウエイトレスの彼氏らしいのが居たらしいぞ!」
後ろの席に座ってる男たちが話しているのに星一は、ゲームの手が一瞬止まった。

そして、ゲームに集中してるかの様子で、耳の神経が後ろの男達の中にあった。     

「どう言う事なんだ?」
「坊主頭の顎鬚の男と、色黒の目が細いすらっとした男の2人組みが良く来てたろ」
「んー!なんとなく見たことあるような、ないような居た様な気もするが、そいつが彼氏なのか?」
「どうも、馴れ馴れしく何処かに出かけた話をしてて、ウエイトレスが帰る時一緒に出て行ったとか・・・。」

「ふーん!何かの間違えか、どうにも釣り合いが取れないよな!」
「そー言う、お前だって・・・。」
「おー!まいいや、でどっち何だ?」
「どっちって、俺が気に入ってる方だよ!」
と何か言葉に力が入ってた言葉から、残念そうな気持ちが伝わってきた。

「じゃあ、もう1人の方は、いや、それが目の細い男は店に居てもう1人のウエイトレスと自分が見たいな事を言ってたらしいぞ!」
「うそだろ!」
「どう考えても、合わねー!」
「思い出したよ!坊主頭の男はそんなに身長も高くなくて、顔が大きい奴だろ!」
「そうそう!そいつだよ、多分」
「嘘だろ!・・・。」
星一は、全神経を耳に集め大森が、話し掛けてる事も気付かなかった。

そうか、彼氏が居たのか、いや!今の話だと最近の話か!出遅れたのか・・・。
と胸の内で嫌な不安が自分を責めていた。

「先輩、話し聞きました?」
「聞こえてるよ!」星一は、少しイラついた。
後ろに居た男達は、「彼氏いなかったんじゃ、早く声を掛けた者の勝ちだったのかー、残念だよ、ちくしょー」と言って出て行った。

ゲームの手は止まり、遅すぎた!何度も、その言葉がこだますると大森が、
「居たんですね先輩のお気に入りの女性が・・・。」と声を掛けたが、
星一は、何も言わず煙草を吸いながら壁に掛けたある、紅葉の綺麗な油絵を、
煙草が短くなるまで見つめながら吸っていた。
何も言わずに・・・。

「帰りましょうか?」小さな声で遠慮気味に、大森は、星一に気を使って声を掛けた。

大森の車から降りると、家には行かずに近くの店に設置してある、煙草の自販機に向かい、
立ち止まり空を見上げさそり座を探したが見当たらない、当然のことだった、
夏の夜にしか見えないその星座を探してしまった星一の動揺は、誰が見ても判っただろう。