風と香りの中で 69

「なあ!弥生ちゃんは好きな人は、おらへんのか?」3人は、部屋に戻ると同じ位置に座ると話を始めた。
「好きな人というかー、気になってる人が・・・。」

「えっ!」と反応したのは理沙だった。
「何よやよ、そんな人いつ見つけたのよ、何も言ってくれないし別にさーいいんだけどね・・・。」
少し、寂しそうに理沙が言うと、
暫く沈黙になり「いい人なの?」理沙は、やっぱり気になるのか尋ねた。

「判んないけど、人目見た時に何か全身に電気が流れると言うか、体が硬直して・・・、その人の笑顔が・・・。」
弥生は、その時の様子を思い浮かべ静かに語った。

「なんや、そんなんやったら話ははやいで、その彼を彼氏にしちゃえばええだけのことや」
2人は、その言葉に顔を見合わせ弥生は「無理です、話した事もないしそれにその人が、私の事なんて・・・」
弥生は、顔を右に傾け苦笑いした。

「その彼は、結婚でもしてるん?彼女がいるとかも聞いてるんか」
澄江は、何か考えがあるような様子で続けた
「その、坊主頭やったけ、その男に彼氏がいますと嘘を言えばいいやんけ」
「そうよ!それがいいよ!」理沙は、澄江のその考えに賛成した。

「それは、弥生ちゃんの心の中でや、強く思っていれば、嫌な男から聞かれた時に彼氏いまんねんわって即答出来る」
弥生は、口をへの字にして困った顔をしたが、理沙は何度も頷いていた。

「それがな、もしかしたら、相手に通じるかもしれへんで、一石二鳥だわ」
澄江は、弥生に期待も持たせようとも思って言った。

「そうだね、やよ頑張りなよ」弥生は、何も言わず下を向いて黙って何かを考えていた。
あれからズート来てないし、もう二度と来ないかもしれない、私とは縁のない人だったのかもしれない。

スプーンを落としたのはわざとだった、弥生は、その男性へのアクションでもあった、
が、「わざと?」て言われた時に、自分の顔が赤くなるのが判るくらい恥ずかしくなったことを、思い浮かべた。

それだけだった、それだけだった事が自分に気がないのだと判断したから、
無理もない「でもな、たとえ付き合ったとしてもそれが幸せでもないやんけ、相手がどれだけ自分の事好いてくれてるかも判らへん」
澄江は、入れた紅茶を飲むと話を続けた

「ええか、うちの経験で言うと男の下心や厄介なもんやで、愛されてると思ってた、
うちは充分尽くした思うで、飽きたんやろなそしたら今度は金や・・・。」

澄江は、淡々と昨日を振り返るかのように話し始めた
「結局、その男の為に売春までするようになってな、
それに気付いたあいつは自分で客を見つけてくるようになったんや、ひどいやろ、
それでもうちは、何かを信じて・・・。まあ、其のお陰で1人でここにこれたんやけど、
そうや、うちは其の男から逃げてきたんや、あいつは、他の女と・・・。
もう、うちらに愛はあらへんその悲しみは涙も出ない程、苦しくて息も出来ないくらいに暗い闇の中を、
後悔や後悔だらけで歩き回って死ぬことは考えへんかったことが唯一の救いだった、
でも、それはまだ、終わってへんかったや・・・。」

澄江は、去年末に其の男からの電話に絶句したことは、誰も知らなかった。
何時か見つかるそーを思いながらも、何も出来なかった。

「弥生ちゃん、どや勇気を出して、その彼に接触してみたらエエかもしれへん」
弥生は、其の言葉に無理っと100回位連呼するほど驚いた。

「それいい!、理沙は簡単に賛同した。」
「何か、エエ方法あらへんか?」
澄江は、暫く考えて「これどや、今度なあ彼が店に来たら注文した所に、弥生ちゃんの連絡先を書いたメモを挟んどくんや」
「それって、でも・・・。」弥生は、又口をへの字にして右に顔を傾けた。

「どんな相手か判らへんけど、一度話してみたらどや」
「それも有りだね」理沙は、微笑みながら澄江の意見を全部賛成していた。

結局3人は、坊主頭の男から回避するには、今はそれしかないだろうと、
弥生は「頑張って見る」と言って、夕食の為澄江が近くに最近出来たファミレスに誘った。

今でこそ、全国的にあるファミレスもこの時代には珍しかった。