「風と香りの中で」カテゴリーアーカイブ

風と香りの中で 50

星一は、二人のテーブルに行くなり「明日か、成人式は・・・。」と席に着くと同時に、
注文の定食を持って来た真理子が「明日、何かあるのですか?」と尋ねた。

大森は、「成人式なんだよ、あんまり行きたくはないけど。」とテーブルに置かれたお盆に載った料理を、
手前に引きながら美味そうだと思うと、沢田が「告白式で、本当は凄く楽しみにしてるんだよ」と、大森の反応を見た。

「そうかー!告白するんだったんだよな!」星一は、知っていたのにそう言って、少しプレッシャーを与えた。

「先輩、知ってるくせに、変なプレッシャー掛けないでくださいよ!」とおどけると、
「へー!成人式に告白ってかっこいいですね!」と、
うれしそうに微笑んで「知ってる人なんですか?相手の方は」と続けて大森を見つめた。

「学生時代の、同級生で卒業式に告白出来なくて・・・、今まで待ってたんだって」沢田が、答えた。

「そうなんだけど、あの時の気持ちが今もあれば、自分の気持ちは真実なんだ、そう考えているんだ」
大森は、真剣な眼差しで話し「そんなに、人を好きになれる相手って見つかるもんじゃないよ!」
と箸を持つ手に力が入っていたのを、気付く者はいなかった。
が、(風と香りの中で 45を読んだ方は、結果を知ってます。よね)大森の勢いは・・・。

「頑張ってね!相手の目を見て真剣に伝えればきっと、大森さんの思いは伝わりますよ」
とやさしく微笑んだ真理子に「そうかー!真理子さんだっけ?」
と星一が声を掛けた「はい!」澄んだ声で返事をすると「幾つなんだい?」と尋ねた
「まだ学生だって。」大森が答えた。

「でも、今年で卒業なんだぁ!」と、うれしそうに答えた。
「対象外?」と沢田が意外なことを言ったことに「何が?、意味わかんない」と大森は言ったが
「多分!」とその意味を理解してるのか、星一はそう答えた。

「小早川さんは、やっぱり無理なんですか?」
「んー、そうだな!」そんなやり取りをしながら星一は、注文をした
「オムライスでいいや!」と妹の瑠璃子のお勧めを頼んだ。

「はい!」と先ほどと同じように澄んだ返事をして、奥に消えて行った。
すると「今日も、独りなんですね。彼女さんとは、会ってないんですか?」大森が、尋ねた。

「何時会ってるんですか?」と沢田が続けた。
「いいや、その話は彼女忙しいんだってさ、だから会えないんだって」と、
にが笑いした星一は嘘をついた。

「振られたんじゃないんですか?」2人が同時に言ったのを星一は、何故か笑えたが、
その方が気が楽になるよなと、そうか!振られればいいんだ。
どうやって?自問自答したがそんな短時間で判るはずもなかった。

そもそもそれも何だか卑怯だよなー!と深刻な顔をしてる所へオムライスを持ってきた真理子に
「どれだけ待てるものなの?」と大森は、いきなりの質問をしたが
「意味が判らない質問は、受け付けませんよー!」真理子は行ってしまった。
2人はそれを見て笑った。

「はーぁ!意味わかんないのはこっちの方だよ、彼氏と会えない時に女性はどれだけ待てるかなと・・・。
何で意味判んないのかね」と大森は、水を飲みかけると
「待てないよ!1日だって・・・、毎日だって会って居たいのに、会えないのなら毎日電話でもして貰いたいわ!」
と顔を出して答えた。

「何だ、聞こえてたのか」と大森は、水を全部飲み干した。
「なんか、可愛いじゃない、大森にお似合いかもな」と小さな声で星一は、呟いた。

「そうだな、涼ちゃんにはあんな感じの娘がいいんじゃない。」と言った沢田に
「孝ちゃんこそどうなんだよ?女性の話とか全然ないよな。」と大森は、沢田に話題を向けた。
「俺、それどころじゃないんだよ。仕事がね・・・。春に、転勤候補に挙がってるんだよ、また、話す、今はな」
と話したくなさそうなのを察してか、詳しくは聞かなかった。

「自分は、もう行くわ!」少し元気がなくなってた星一は、先程の真理子の話を聴いて胸が痛んだのだった。

自分の気持ち加奈の気持ち、男と女って何だろうと、大森と沢田の話すら聞こえなかった。

星一は、何故こんなに悩まなければいけないんだと、もう帰るかと帰ることにしたのだった。
天気予報の通り雨は冷たく降り続けていた。

「大森、明日、頑張ってな!」そう言って支払いを済ませると、真理子に「ありがとう」と言って出て行った。
すぐさま真理子は、大森の所へ来て「何かあったの、元気なくなってたわよ!」と尋ねると
「彼女の話なんかするからだよ!」と沢田は、大森を攻めた。

「大丈夫だよ、あの人は打たれ強いから」と小さく呟いた。
2人もそれから暫くして店を出た。

帰り際に真理子が「一番に、報告に来てね」と微笑みながら、手を振ってると
「まり、もう店の方はいいからね」と母親が声をかけると、真理子は、部屋に戻った。

風と香りの中で 49

大森と沢田は、夜半から振り出した雨の中浜の食堂に向かって歩き、
成人式の明日は間違いなく雨だなと2人は足早に店に入って行った。

「いよいよだな!」と、沢田が大森の告白の日を成人式よりも楽しみにしていることは、
大森は知る由もなく「大人の仲間入りか?良く判らんよ、あえてそんな日が必要なのかなんて・・・。」
店は空いていたので、座り放題で右手に2テーブルある座敷の席に座った。

「そうじゃなくてさ!。涼ちゃんの告白が、俺は楽しみなの今日から大人とかそんなの関係ない、
20歳になればお酒も煙草もオッケーなんだろ親にも言われないし・・・。」そう言って煙草に火を付けた。

真理子は、勉強の休憩中だったのか大森達が入ってくるのを見て、座席に付くと直ぐに注文をとりに来た。

「あっ!まりちゃんだ!」と驚いてもいないが、馴れ馴れしく話した。
沢田は、当然何だその馴れ馴れしさは、と思いながら真理子を見て、
ここで働いてるのとか、年は幾つなどと初対面で平気でそんなことを聞いた。

沢田も大森と同じように気さくな性格だった。
真理子は、何の躊躇もなく、ここの娘で可愛い看板娘よ、
年はまだ18歳の花の女子高生ですよと、満面の笑みで答えた。

注文をして奥に行った真理子を見ながら、
「涼ちゃん、今みたいに気軽に話をすればいいんじゃないか、
あんまり気負うと伝えたいことの半分も言えない気がするよ」
と沢田は、的を得ていた。

「そうだよなー!明日なんだよなー!」と、
あまり考えずにしておこうとしたがそれは無理な話しで話題がそうなるのは、
結果がでるまで人事だが楽しみになってしまうのは誰だって同じなんだろう。

そんな話をしている所へ、店の扉が開くと星一が独りで入ってきた。
星一は、客の少ない店内では2人を見つけるのに時間は掛からなかった。

風と香りの中で 48

星一は、ホームセンターに入ると必ずペット売り場に最初に行くことが当たり前のように足を向けた。

ガラス越しの犬や猫を眺め、時折気を引く為指でガラスをなぞり、暫く時間を費やした。

目的の便箋のセットと、小さめの木材とそれを削るための道具を買って店を出た。

澄江は、朝から眠りに付き深い眠りから次第に浅い眠りへと移り行く中で、暗い闇の中で走りまわっていた。

「誰やろう?」途中木の陰に身を隠し、後を付けて来る何者かを見てやろうと身を潜めた、
寝返りを打ちながらも澄江は、今、夢の中で奮闘していた。

軽くかけていた暖房も、部屋を充分に暖めて掛け布団もいらないくらいだった。

暫くするとその黒い影は、澄江の身を隠している前を通り抜けていった。

「誰や?」小さく呟いたが、それは影のようになって姿、形も判らない、
行った事を確認するとゆっくりと辺りを見渡し出てきた所に、突然目の前にその影が襲い掛かってきた。

澄江は、わっーと叫びながら飛び起きた。
薄っすらと汗をかいた体を自身で抱きしめ、
その鼓動を抑えようと身を屈め布団に頭を付けたまま暫くはじっとしていた。

「嫌な夢やわ!」か細い声で呟くと「あの影は、あいつかもしれへんな!ほんま嫌な夢や!」
そう言って、夢から覚めて今は、自分の部屋のベットの上なんだと確信すると、シャワーを浴びに部屋を出て行った。

風と香りの中で 47

どんよりと曇った空は、今にも雨を降らせそうな寒い日だ。
夜半から雨になると天気予報は告げている、年が明けて既に2週間が過ぎている。

明日は多くの人が成人を迎えるが、弥生たちにはまだ先の話だった。
理沙は、時間通りに香月姉妹と合流して、
しつこく弥生に誘いを掛ける坊主頭の顎鬚男と目が狐の様に細く浅黒い顔の男を待っていた。

1度出掛ければ、もうしつこくは誘い掛けないだろうと大誤算のデートを受けてしまった。

時間通り白いセダンに乗った2人の車が到着した。
運転席から坊主頭の男が降りてくると、多分今までの最高の笑顔で弥生の所までやってきておはよう、
と挨拶をして妹のかすみと、飛び入りで来た理沙にも同じように挨拶をした。

3人も同じように挨拶を返すと、狐目の男が弥生に助手席に乗るように進めたが、3人は後ろで言いと難なく後ろに乗り込んだ。

坊主頭の男は残念そうな表情で運転席に乗って「取り合えずドライブに行こう!」と、弥生を見た。

「何処まで?」弥生が尋ねると、狐目の男が「富士山まで行こうか」と言った。

「遠くない?」弥生は心配そうに尋ねたが、高校生の行動範囲にすれば遠いだろうが、
車だとひと回りしても夕方には戻ってこれるからと、坊主頭の男が小さな声で呟いた。

「夕方には帰ってこれるのよね?」
理沙は、何か探るように言うと狐目の男が苦笑いしながら振る向き
「大丈夫だよ、そんなに遠くもないだろうしな」とそっけなく言った。

2人の男は理沙が来たことは、計算違いだったのだ。
2対2なら、恋人同士気取りで親密に慣れると思ってもいた。
が、それは高校生だろうとそんなに甘くはなかった。

もっとも、それがお気に入りの相手なら話は違っただろうに、
だからこそ坊主頭の男も、狐目の男も1回のデートで弥生とかすみを
彼女としての交際を決めなくてはいけないと思っていたのだろう。

風と香りの中で 46

雨も上がり、昼過ぎから眠りに落ちてしまった星一は、
寒気を感じながら突然辺りがいつもの様に赤くなり次第に辺りには多くの木が茂っていて何処からとも無く
また女性の啜り泣きが聞こえると、その後ろ姿が現れてきた。

いつもと同じように手を差し伸べるとスッーとその先に行ってしまう
追いかけていった先に、真っ赤な海が広がり、その女性は更にその先に消えていったと同時に、
冷たい風が吹き抜けて行くと「さむいーな」と、
星一が目を覚まし妹の瑠璃子が得体の知れない木彫りのその塊を持って、笑っていた。

瑠璃子が開けた窓から再び冷たい風が入ってくると、
完全に目を覚ました星一が「何してるんだ!」と中途半端な木彫りを見て瑠璃子に言った。

「何これ?」と上に掲げ更に「栗本さんから電話あったよ、
それに和樹にい来てるよ」と言って木彫りをまじまじ見て笑っていた。

星一は、いつもの意味不明の夢が何かの暗示なのか、もっとも夢とは不可解な事が多から夢なのかもしれない。
が、自分の中でしか起こらない出来事として星一は、溜息を付くとベットから降りた。

成人式からは、2年も過ぎた星一は、まだ大人にもなりきれてなかった。