「風と香りの中で」カテゴリーアーカイブ

風と香りの中で 5

夏が過ぎ、日々過ごし易い時は、
やがて来る冬に備え辺りの木々も紅葉からやがて散って行く、
枯れ葉となる季節に風は穏やかで、
空はまさに秋晴れと言えるくらい青く雲ひとつない、
見る者全ての人々に安心感さえ与えていた。

そんな日の公園のベンチで、弥生は質問攻めに合っていた
「だからさぁー、何で別れちゃったのさぁ。」
理沙は、半ばうれしそうに尋ねた。

「判らない。ただ何となく合わないなっと、一年たってそう思ったのよ。」
弥生が俯きながらそう答えると、
「正式に別れたの?」
と覗き込んでやっぱり少しうれしそに理沙は尋ねる。

「また、寄りを戻すとか、暫く、距離を置くとか、
そんな約束なんて、まさか してないよねぇー。」
理沙は、予かならぬ返答がないようにと、弥生の隣に座った。

「もう、やめなよ!」と、反対側から真理子が制止した。
「私は、今はもう誰とも付き合わない、そう決めたんだから
智君とも、正式に別れたよ・・・・。これでいい!」と、
少し投げやりっぽく言って顔を上げた。

「何それ、これでいいって・・・。
なんかさぁー私がさぁーやよと智君が別れたらいいなぁなんて
思ってる見たいにさぁー人の不幸をさぁー そんなんじゃ ないからね。」
理沙は、少し強い口調で、自分の気持ちが気付かれないように言っては見たものの、
二人には理沙の気持ちが手に取るように判ったのがおかしかった、
特に真理子は、ムリと小さく呟やいたのだった。

遠くで、子供たちがボールで遊んでたのか、
弥生達の近くまで転がってきたのを、
小さな子がと取りに来ると、
遠くに見える相手に投げようとした。

遠くの向こうから、ムリ、、ムリ、お前にはムリだよー。
と叫んだのが、真理子は思わず、笑い出してしまった。
弥生と理沙は、真理子を不思議そうな顔をして見つめていた。
新たな風は、何処からともなく流れ何処までも行き止むこともなく、三人は歩き始めた。

 

風と香りの中で 4

「何で毎日会ってるのに、日記の交換なんかしてたの?」
アキは、自分の中で不思議に思えた。

しかし、今の通信技術の発達した時代とは違い
携帯とかスマホのメールで簡単には、伝えるとかの
手段がなかった。当然、アキには、その感覚が判る筈もなかった。

3月19日(火) 快晴 いい日

やよちゃん、最後の制服なんだよな。卒業おめでとう!
いつ見ても、可愛い制服姿も、今日で最後か・・・。
写真一枚くれるよな。絶対もらうからな。・・・。

長々と書いてある、その日のページは父の気持ちが伝わってきた。
「何書いてんだかぁ!」と呟きながら

アキは、自分の頬が赤くなっているのに気付くこともなく
既に、時は、西日がオレンジ色に変わり
やがて、日が暮れていく中で

何処からともなく、肌寒い風と、ほろ苦い若草の香りが
アキを取り巻いていた。
「処?、ここは?」と、目の前には、見覚えもない学校が、飛び込んできた。

辺りに高いビルもなく田んぼや畑、ところ処に民家と
アキには、まったく見覚えもなかった。

学校の門からは、何人もの人たちが手を振ったり
ハンカチのような物で、目元を拭いたりしながら出てきていた。
「えっ!まさか」

「えっ、うそ!」既に、状況を把握して来たのか、思わず空を見上げた。

微かに吹く風は、やはり肌寒く、心地いい香りがすり抜けた。
すると、大勢出てきた中に、見覚えのある女子学生を見つけると
その場に身を屈めた。

無意識に見つかってはいけないと思ったのか
アキは、そっと顔を上げて、その女子学生をじっと見つめた。

「間違いない、写真の中の母と同じだ!」
アキが母と一緒に見たアルバムは、アキが高校の卒業をした後だった。

「私に、そっくりね。」と、母がアキの卒業写真を見て
自分のアルバムを持ってきたのだった。

「ママだ!」アキは、立ち上がると何を思ったのか
その女性に向かって歩き始めた。

「ダメだ!」何処からともなく聞こえる声
アキは、「えっ!」と立ち止まり、振り返ったが誰もいない。

「誰?空耳?」アキは、向き直り再びゆっくり歩き始めると
「ダメだ!戻れ!それ以上は行ってはいけない!」と
ハッキリと聞こえた声は、父親の声に似ていた。

「パパ?」と、又立ち止まり辺りを、何度も見渡したが
誰もいなかった。

アキは、顔を、左に傾け不思議な感覚で
どうにも、高鳴る鼓動が抑えきれなくなってきていた。

「なんなの、ここは、私、どうしたんだろう。どこどこ?どこなのー」
アキは、自分の体や顔に触れて「うそでしょ!」感触がない。

既に、大勢のその集団が、アキのすぐ近くまで来ていた。
「戻りなさい!」その声は、アキ自身の心の奥から聞こえてきていた。

「お母さん!」いつもなら「ママ!」と言っていたアキだったが
もう遅かった。目の前に学生時代の母が見えた。
が、相手からはアキは見えていなかったのだ。

すれ違い際、アキは、母の顔をハッキリと見ると、最高の笑顔で
見送った。その一瞬のこと。

辺りは真っ暗になり、深い闇の底へ堕ちて行く
寒く長い時、アキはそのまま身を任せ消えて行った。

風と香りの中で 3

3月10日 日曜日 晴れ

今日から、お互いのノートに、その時の気持ちとか、書いていこうね。
母の字だった。

長く続くように、いつまでも仲良くよろしくね。と、だけ書かれていた。
アキは、戸惑った「本当に、見てもいいんだろうか。」

両親の元で、生まれ育ててもらい、少なからず幸せを感じてる。

一度、ノートを閉じると、楽しかった子供の頃、3人で出かけた
初めての旅行の事を、思い浮かべた。

アキの、瞳から一筋の涙が流れた。
「読む、そう、読むって決めたんだから」

そう小さく呟いて、両手で顔を覆って溢れ出そうになった。
涙を、止めてからノートを、再び、開いた。

3月11日 月曜日 少し晴れ

書く事は、苦手なんだけど、頑張って書くよ。
でも、何を書けばいいんだ?と 父の字だった。

アキは、父の困った時の顔を浮かべたが
その時は、もっと若かったからアキが思ってる
表情とは、きっと違っていただろう。

暫くは、取りとめもないやり取りが、続いていた。

 

風と香りの中で 2

そこは父親の部屋で、アキは、殆ど立ち入った事のない部屋だった。

一度、部屋から出ると、キッチンに向かった。

冷蔵庫から、一本のミネラルウォーターを取り出した。

読むよ、と、決めた覚悟から、アキは、変に気合が入ってた。

部屋に戻ると、すわり心地が良く落ち着く場所に、位置を取ると
ゆっくりと、一冊のノートを手にして、座り込んだ。

誰もいない家は、静まり返って、アキは、早くに目が覚めた。

今日は、父親の部屋を、整理しようと
前々から思っていたが、やっと時間が取れたのだった。

手にした、ノートは何とも言いがたい古臭い香りが
時を越えて、アキは、今、立ち入ったらいけないだろう
扉を、開けた。

 

 

風と香りの中で  1

強い西日がレースのカーテンの隙間から差し込む、
部屋の中でどれだけの時が過ぎたのか。

只、夢中に古びたノートを読み続けてる。

アキは、時々「うそ」とか、「えっ!」などと
呟きながら身動きもしない。

一輪の花から

アキは、押入れの中から引きずり出した。
かび臭い箱を、そっと開けると中には、何冊ものノートが入っていた。

表紙には、可愛らしい文字で 、交換日記と、記されていた。
アキは、迷った。
父の物か、母の物なのか、それとも二人の物なのか
見てもいいのだろうか

「こーゆうのって、見ない方がいいんだよね」
アキは、自分に言い聞かせ、蓋を閉じた。が、気になって仕方がなかった。
暫く、自問自答して、結果は当然、おそらく幾人者人は、見てしまうだろう。
もちろん、アキは蓋を再び開けて、一番上の、一冊を手にして取った。

「すいません」両手に乗せた、日記帳に深く頭を下げて、近くにある父親の机に置いた。