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風と香りの中で 10

辺り一面真っ赤に染まる空間が広がっていた。

徐々に辺りは、暗い闇に覆われて行くと、何処からともなく女性のすすり泣く声が聞こえる、
何処を見渡しても誰も居ない、その声が近づくと共に、姿が現れて来る
「だれ?誰だよ?」後姿でも女性と判る距離に来た時に、手を差し伸べた。

すると、スッーと消えて行く。追いかけようにもここがどこか判らない。
風もなく音もないこの世界で一人取り残された星一は、虚しさの中で目覚める。
「またかよー!」連日そんな夢で目覚めていた。

「誰だ、何を訴えているんだ、なんなんだ?」薄暗い部屋の中で、
ぼんやりと天井を見つめ「まったくよ!」と体を起こした。

ベットから見える壁掛け時計は、垂直になる少し手前を指しているのが見える。
「まだ、6時前か!もう少し・・・」と思い再び体を倒したが、寝れる筈もなかった。

あの夜、二人で歩いていたのは間違いなく、あのウエイトレスだ。
大通りから左に行った先には家が一軒。

二人ともそこに入っていった様子だからまず姉妹だろう。
「何を考えてるんだ、俺は・・・。」彼女が出来たばかり、
それも来週には家に来るって言うのに、でも、何故だ?
先輩に紹介されて、それで彼女、ん!友達、ん!で結婚になるのか俺の意思は、
そっか!付き合うって決めた時点で自分の意思?
何か、おかしい おかしくないか?
好きとか嫌いとか、恋とか愛とか?何処にある?結婚?
生涯一緒に生きて行く相手だよなあー。

「わからん、なんだこの腑に落ちない自問自答は」と星一は、
今まで考えたことも思ったこともない事で頭を痛ませていた。

この広い日本に何千万と言う女性が居るのに、
出会いって?街中でぶつかっても出会いだよな、
会社で知り合っても出会いだ!

自分の意思?そっか、出会って気になる相手、
そしてあの胸が痛くなるくらいの衝撃、あれが恋か、すると俺は・・・・。
星一は静かに眠りに入っていった。

 

理沙は、智彦との待ち合わせで久しぶりに来た、賑やかな駅の高いビルの前で、
ピンクのダウンジャケットにジーンズと、
意外とラフな格好で嬉しそうに時間ばかり気にしてた。

風と香りの中で  9

店の前に着くと、弘幸が先に中に入る。
「喫茶 ナイト」と、呟きなが星一が後から入った。

相変わらずの、大勢の客に驚いた。
自分達と同じ年代の男性が多かったのに「相変わらずなのか、この混雑は?」と言いながら、
弘幸は空いてるテーブルの座席に着いた。

星一は、カウンターの中をチラリと遠慮気味に見ながら、
今日はいないのかと見当たらないウエイトレスを気にしながら座った。

直ぐに、注文に来たウエイトレスは、前とは違う女性だったが、
どことなく似ているウエイトレスを見て星一は、「んー!」と小さく唸ってコーヒーを頼むと、
弘幸も「俺も!」と、ウエイトレスは何故かニコニコしながら注文を取っていった。

二人は、話し始めると尽きないくらい夢中になり、時を忘れるくらいだ、
そんな、最中に、チャリン チャリンと金属音がした。

「ん!」星一は、直ぐに反応して落ちたスプーンを拾い上げるウエイレスを見ると、彼女だった。

「また!」と、見つめた。
星一は、あの日と、同じように全身に何か不思議な感覚が飛び込んでくる衝撃を受けた。
「わざと!」と、言ってはいけない言葉がつい出たのだ。

そこへ、すぐさま「せいちゃん、今日もブラック?」と、空気を読んだのか弘幸は声を掛ける。

「変えて下さい!」と告げると、「ハーイ^^」と首を左に小さく傾け微笑んだ。
何だ?この胸が詰まるような感覚は、二人のウエイレスが動くたび、
目だけが追いかけ弘幸が、話しかけても何処か上の空だった。

「出よう!」星一は、時計を見て慌てて店を出ることを弘幸に言って、
レジに行くと彼女が居て「可愛いな、やっぱり!」そお思いながら「ありがとう!」
と言った彼女に「あ、ああ!」としか言えなかった。

車の中は、まだほんのり暖かく、何も話さない星一の様子がおかしいのに、
弘幸は既に気付いていたが「なあ、せいちゃん・・・」と言いかけて止めた。

弘幸は、星一の考えてることなど判らなかったから
「あの店の混雑は、皆あのウエイトレス目当てじゃーないか?競争率高いなー!」
ボソッと言ったのは星一に、忠告の思いも込めて言ったのだが、星一には無意味な言葉だった。

「じゃあ、またな!」と弘幸を降ろすと、一人来た道を戻って行く。
今は、只、星一は、目に浮かぶウエイトレスの事を知りたかったのだ。

 

風と香りの中で  8

「連れて来なさいよ、会ってみたいからね、せいが彼女の話なんて初めてだったし学生時代も居たんでしょ。
も一度も、紹介してくれなかったでしょ。まあ、せいが気に入った娘だから・・・。」
テーブルを拭きながら、少しうれしそうだった。

星一は、子供の頃から良く母親と会話してたが、マザコンではない。
賑やかで、気さくな家族の中で育てられたからなのか、そこそこの話はした。
で、何故か可奈と付き合った時にだけ、母親に話したのだ。
それは、星一にも判らなかった心境だった。

「だから・・・?」星一は、尋ね返した。
「かあさんは、心配はしてないけどね。」と、星一を見て微笑んだ。

「心配ってなんだよ?」と思いながら、
やはり、息子の相手は母親ながら会っておきたい気持ちはあるのだろうか、
品定め?どうゆうつもりかは星一には判らなかった。
「普通の娘だから」そー言ってキッチンを出た。

相手が、会いたくなければそれでいい、まだ、そこまでの気持ちも星一にはなかった。
が、数日後、可奈の返事は即答だった。

「だから、クリスマス家に来なって、お袋が可奈に合いたいってさ。」
「行く、行くよ、仕事は休みだと思う。私、まだ見習いだし、お母さんに会っておきたいしね」
「おかあさん・・・。?」星一は、首をかしげた。

「あー、気合入るなぁー」、受話器の向こうの可奈の顔が浮かんだ。
「そんなに、気合入れなくたっていいからな、うちの家族結構気さくだからさぁ」と、
暫く近況などのとりとめもない話をして、受話器を置いた。

そして、午後11時過ぎにすぐさま、弘幸に電話して、出かける約束をした。
「いつかの、喫茶店にしよう。」と弘幸が決める。と星一は、車を走らせた。

「そっか!親に合わせるのか!まあ、悪くはないけど・・・。」とその後の言葉は言わなかった。
「まずい!か?」星一は、弘幸の言葉が何か引っ掛った。

弘幸は、既に一緒になると決めた相手が居る、
そんなに簡単に決めたわけでもなく一代決心はあったようだ。

以前と同じ路上に車を止め、二人は同時に降りると「せいちゃん、で、結婚決めたのか?」と、
冷たい風が吹きぬける中で、弘幸は大きな声で尋ねる。

「まさか?」少し迷いながら、星一はつぶやくように言って、歩き始めた。
「もしかしたら・・・。それも有りかぁ」弘幸には聞こえない、心の中で呟いた。

風と香りの中で  7

街の至る所では、既にクリスマスムードが高まっていた。
それは、近い未来日本全国で、家の軒先から玄関までもが
派手な装飾照明などで着飾る時が、来ることなど思いも寄らない
時代の弥生達にも、クリスマスが近づいていた。

「やよ!どうするのクリスマス。」
「ん!」いきなりの、理沙の問いかけに「どうするって?」と聞き返した。

冬休みも近づいている学校は、授業も早くに終わり、いつもの三人は
帰りの電車の中で、そんな会話が始まった。

「私は、毎年家族でね。料理作るの手伝わないとだし、兄妹多いし」
理沙は、それが楽しいだよって感じだった。

「そっかぁ!いいなぁ」と、羨ましそうに弥生は、「私は、バイトかな?」と首を傾げた。

「何で、そんな日にバイトすんさぁー。やよん家そんなに大変なの?」
理沙は、半信半疑本当は違うよねと、思いながら「ほんとうに、バイト?」と聞きなおした。

「まあ、クリスマスはお客さん沢山来るし、香月姉妹がバイトに来るようになってから
喫茶 ナイトは、連日大繁盛だって噂だよ・・・。」
真理子は、私は知ってるよと少し自慢げに話した。

「何よそれ!」と、理沙の性格上何かあるぞと、勘ぐった。
「いい人いるの?、新しい彼氏でも見つけたの?」
また、理沙の弥生に対して質問攻撃が始まった。

「りさって、いつもやよの事きにするよねぇ」と言いながら、二人を見た。
「やよは、可愛いし美人だし、智君と別れたって直ぐに新しい彼氏くらいすぐに出来ちゃうからさぁー。
どうかなぁーて、智君と別れたんだよ、女子に人気が高かった男子だよ」

まだ、二人が別れた事を気にしていた理沙は、次の休みに智彦と会う、約束をしていたのだった。

だから尚更、弥生の事が気になっていたのだった。

理沙に、降りかかる怪しい影は誰にも知れずに忍び寄り、何時ものように三人は、笑顔で家路に着く。

 

 

風と香りの中で 6

11月中旬は、冬間近なのか、もう冬なのか微妙な時期で夜は既に、
寒く時折強く吹く風は冷たい、思わず体をすくめてしまう。

「今から行くよ、大丈夫!今日の報告な!そう、そう先輩に紹介してもらうって言ってた。
その女性に会ってきたから、迎えに行くよ。じゃあ、後で」と、星一は電話を切った。

日付が変わる少し前、上機嫌の星一は車を運転しながら今日の出来事を、弘幸に話し続けていた。

暫く、走っていると一軒だけ明かりが点いている建物を二人同時に、見つけた。
「喫茶店か?」星一が言うと「そうみたいだ。遅くまでやってんだな!」と、弘幸が答える。

「そこでいいや、なあ!」と星一は、既に車を止める場所を探してた。
「そうしよう、こんな時間じゃ此の辺りにはないかもな」
弘幸は過ごしていく店の中を見つめたが、よく見えなかった。

その店から、そう遠くない路上に場所を見つけると、車を止めて降りて
足早に向かった。吹く風の冷たさが身に沁みる程、車中は暖かかった。

「よく通る道だが、気付かなかったよな、こんなとこに喫茶店があったなんて」
弘幸は、今まで気付かなかったことに少し悔しさがあったような言い方をした。

「何時迄、やてんのかな?」星一は、そー言ってドアを開けた。
カラン、カランと客が来たよと、扉が知らせた。
中に入ると、はぼ満員状態に、二人は驚いた。

外からは分からない中の様子は、まさかの大繁盛「なんだ・・・」と弘幸
「おお!」と星一、二人は顔を見合わせた。

奥に、空いたテーブルを見つけると、二人は辺りを見渡すように席に着いた。

日曜の深夜に、二人はちょっとした事件になっていた。
「ひろちゃん、コーヒーでいいや頼んでおいて」そー言ってトイレに向かった。

星一は、戻ってくるなり「どうしようかな?やっぱり・・・。」
「看護婦見習いだっけ、きっとやさしいと思うよ。」
弘幸は、職業でのイメージでそう思ったのか普通は、そんなものかもしれない。

「せいちゃんが、いいと思えばいいだろうし、まあ、一度付き合っても
いいんじゃないか!」「そうだな・・・。」と言い掛けた所に、
チャリン、チャリンと金属音が近くで聞こえた。

ウエイトレスのその女性は、慌てて落ちたスプーンを拾い上げた。

星一は、その女性を見た瞬間、全身に生まれて初めて感じるその感覚が何であるのか判らずも、
全てが真っ白になってしまった。

ウエイトレスの顔から、すぐさま目をはずすと「別の持ってくるね」とウエイトレスは、
何時ものことのように告げた声に「いいや、別に・・・。」
そー言ってコーヒーを手元に持ってくると、何も入れずに一口飲んだ。

「せいちゃん、甘党じゃなかったけ?」と弘幸は、星一に言った。
大丈夫、今日から、ブラックと言って、熱かったコーヒーを何度も飲んだ。

ウエイトレスは、その様子を見て小さく微笑んで行ってしまった。
二人は、一時間近く居て途中、ウエイトレスの女性は帰っていった。
星一は、その時間を無意識なのか、チェックした。そして二人は店を出た。

「判った、あの店の繁盛ぶり!」星一が、前方を見つめながら言うと
「ウエイトレスの女性!」と弘幸が、すかさず答えた。
せいちゃんと弘幸が声を掛けると・・・。

「付き合ってみるよ、看護婦見習いさんと」何故か、うれしい話だったはずなのにあの時の、
あの一瞬、あの感覚、星一は、弘幸と別れ駐車場から、家に入るまでの間、
寒い夜の空に輝く多くの星を暫く眺め、眠れない朝を迎えることとなった。