「風と香りの中で」カテゴリーアーカイブ

風と香りの中で 60

4人は早速、喫茶ナイトに向かっていた。
「先輩、どんな感じの女性なんですか?」
大森は、星一の気持ちも知らずに尋ねた。

それどころじゃないぞ!何でこんな流れになってしまったんだ。
心の準備もなく告白って言うか、彼女に声を掛ける事になってんだ。と、
胸のうちは高鳴る鼓動と不安で星一は、一言も話さなかった。

「何て言うか、顔は小さく髪は肩の辺りまであって、なんと言っても目が大きく平均的に整ってて可愛いよ、なあ!せいちゃん」
弘幸は、自分なりのイメージを言ったのを晴香は、当然「かわいいのーそうなのー、ひろも気に入ってるんじゃないの・・・。」と、
弘幸の顔を覗き込みはにかんだ。

「やきもちか?」「ばーか!」2人のやり取りが暫く続き、
仲が良いよなと思いながらも店の中じゃ声も掛けれないしな、と困っていた。

そうだよ!そもそも何で、大事な事を、突然沸いてきた皆の興味の中で、
自分は、彼女にあれこれ聞かなくてはいけないんだ。

それに、仕事してる相手に話しなんか出来るのかよ、
「今日は、話もしないし、ましてや告白なんて100パーセント失敗の元じゃないか、
行く事は行くけどどんな女性なのかそれぞれで感じて貰えばいいからな!」
星一は、自分の気持ちを落ち着かせ何とか回避しようとしたわけでもないが、
まだ、その女性の事を何も知らない事も不安だった。

彼女との出会いをぶち壊されたくもない、自分なりの形で赤の他人から、
知り合いになって打ち明けるそれが1番いいと星一は思っていた。

たとへ時間が掛かろうとも、既にいい相手が居たなら仕方ないと、
それは、無意識の自分の弱さと傷つく自分の怖さからなのかもしれなかった。
「先輩、いいとこ見せてよ!」大森は、そんな星一の心境も知らずに、面白半分で言った。

つい先日まで、同じ悩みであれこれ思案していた大森は、
人事となるとそれはテレビドラマのワンシーンの傍観者になのだ、
どうなるのか楽しみな所もあるのは事実だった。

「だから・・・。」星一は、言いかけた言葉を飲み込んだ。
いつもより少し早い時間に来たこともなかったが、店にはまばらに客が居て、
ゲームが出来るテーブルは全部うまっていたので奥の空いたテーブルに4人は着いたが、
それらしいウエイトレスも居ないことに大森は、
辺りを見渡しながら「それらしい女性は、いないですね」と、
弘幸と星一に担がれたんじゃないかと、店の中を何度も見渡してると
「ざんねーん、だったな!」と、安心をした星一の胸の内を知るものはいなかった。

「なんだーいないの!」晴香が言うと「みたいだな」っと弘幸が答えた。

星一は、何も言わず注文を取りに来た、中年の女性にコーヒーを頼んだ。
辞めたのかもしれないそれを、中年女性に聞くわけにもいかず。

「ところで、ひろちゃん達はいつ式を挙げるんだ」と尋ねた
「今年の、6月には・・・なぁ!」と晴香を見ると
「ジューンブライトが良いのよ生涯幸せになれるからね」と、晴香は弘幸を見つめた。

「ひろさん、もう結婚するんですか?」
大森は、いつも蚊帳の外で初めて耳にすることが多かったのを
「先輩達は、僕には何も話してくれないんですよね」
とすねて見せたが、可愛くもなかった。

「大森は、何も知らなくていいんだ」星一は、飲み干したコーヒーカップを置くとそー言って
「後から聞いた方が、良い事だってあるんだよ、なあ、ひろちゃん」
「そうさ、まあ、大事なことはちゃんと話してあげるから心配すんな!」
「意味判んないです。」
と大森は、カラン、カランと店の扉が開くと同時に振り返ったが期待した女性じゃなく、
坊主頭で顎髭の男と狐目の男が入ってきた。

風と香りの中で 59

喫茶ナイトに行く事になったのだ。
「おいおい!ちょっと待てよ、まだ今は・・・。」

球のはじける音が、ところどころで響きわたり星一達も、
順番に球を落としこんでいた「せいちゃん、手紙出したのか?」弘幸は、順番待ちの最中に星一に尋ねた。

「ああ!何か嫌なもんだよ。」星一は、キューを吹きながら答えると
「別れたんですか?」と大森が、打ち損ねた球を見ながら言った。

「多分、可奈も判ってくれるよ、自分たちにはまだ、沢山の思い出もなかったし、
引きずるものもないから良かったのかも・・・。」
星一は、一点の的を身を乗り出し見つめながら言うと

「でも、その人の気持ちは、ちゃんと話したの?」
晴香が、同姓として納得できない部分があったのか星一に、尋ね
「何故、付き合ったの?」と続けた晴香を見たとき、
狙ったはずの的は、見事に空振りになってしまった。

「あ!」と星一は、ミスした事に慌てた。
「はるちゃん、変な事言うから・・・。」と、
はずしたことを晴香のせいだぞと言わんばかりに「集中してたのに!」と、
晴香を見て「付き合うって決めたのは、別に好きな相手もいなかったし彼女も居なかったから、
だから紹介してくれて良さそうな女性だったから・・・。だけど、運命の悪戯だよどっちも・・・。」

「何それ、ひろから聞いては居るけど、たった1・2回あっただけの女性でしょ、
何も知らないんでしょ、その人のこと。」
と珍しく晴香が興奮していた。

「どうしたんだよ、はるちゃん、じゃあ何かい自分が別れた事は、悪なのか?」星一も、少し熱くなってきた。

「そうじゃないけど、きっと可奈って人はせいちゃんの事を真剣に考えていたと思うのね、
だから、せいちゃんの家にも来て、両親に会ったんでしょ、
だから・・・同じ女性として、なんだか寂しいなぁ」
晴香は、そう言って思いっきり球を突いた、飛ばされた球は見事に当たると、
心地よい音と共に穴の中に滑りこんで落ちたのだった。

「先輩、そんな相手がいたんですか、何も教えてくれないんですよね」
大森は、自分に聞かされていない話が水臭いなと思いながらも、真理子のあの時の言葉が妙に切なかった。

「それで、どうするの?その女性には気持ちを伝えるんでしょ?」
晴香が言うと「当然だよな、可奈さんの為にも、そうしないと別れた意味がなくなるぞ!」弘幸が続けた。

「そうだよな・・・。」星一は、確かにそうだと思ったが迷いはあった。
「ひろちゃん達みたいに、お互いが自然といなくてはいけない存在になれればなー」
と星一は、安易に言ったのを「そうでもないけど、気が付いたら一緒になる事になってたのは事実だけどな」
弘幸が言うのを「毎日、電話して来てね好きだよって言うしね・・・。ひろ優しいしね!」

おいおい、お惚気かと思いながら「2人は、お似合いだから、早くに一緒になるのも有りだよな」
星一は、特に羨ましいとも思ってはいなかった。

「じゃあ、せいちゃんの告白を楽しみに、今からその女性に会いに行こう。」
と弘幸が、提案したのを晴香も大森も賛成で星一は、慌てた。
「そんなこと、言ってる内に他の男に決められちゃうよ」と、晴香も弘幸も同じ事を言った。

「でも、既に彼氏とか居たらどうすんだよ。」星一は、不安な気持ちで声を小さく呟いた。
「居たら、諦めるんですか?」大森は、自分に問いかけてた同じ事を星一に、尋ねた。

「判る分けない、今は、そこまで考えていないからな、その時に考える!」
確かに、例え一目惚れしたとしてもそれは、一方通行になる可能性が高い、それは仕方ないのかもしれない、
それはその人と縁がないからだろう。

それしかない、運命が決められてるとしたらその人とは出会っても居ない、そう思いたいと星一は、
店を出て空を見上げたが辺りが明るすぎて星を見る事は、出来なかった。
ただ、冷たい風がゆっくりと頬をなぜていった。

風と香りの中で 58

寒い公園には、人もまばらで時々犬を連れた散歩だろう人が、
犬に合わせてゆっくりと歩いてる人が居る中で、3人は妙にしんみりと話し込んでいた。

「どうしたらいいんだろう」弥生は、悩んでいた。
「だから、誘われたってハッキリ断ればいいのよ!」と理沙は、あの男たちならしつこく付きまといそうだよな。
と、だからこそはっきりした意思表示をしないといけないんだろうなと思った。

「それが、やっぱり出来ないのよ」深刻な、顔をしてる弥生は、今にも泣き出しそうだった。
「いいことがあるよ、彼氏を作る事よ、いい人居ないの、やよ!」真理子は、良い案だと自分でも納得した。

「そんな簡単に・・・」と言い掛けたところで、
忘れかけていた思いが湧き上がってきた
「居るにはいるんだけど、最近は、お店にもこないし、きっと彼女さん居ると思うんだよね」
「何それ、初耳だよ!」2人は、弥生の中に新しい候補がいる事など知らなかった事に、唖然とした。

「どんな人なの?」
「話した事もないんだけど、やさしく面白そうな人なんだよね。初めて見たとき、私・・・」
「何で、話しもした事もないのに判るのよ、いつから、やよ、
何にも教えてくれないんだもの、そうゆう人がいるなら、
尚更、あの男たちと出掛けるのは良くないんじゃない。」
理沙は、突然のやよの告白に驚きながらも、早く何かしないといけない気がした。

「やよ、今度さ、私が知り合ったお姉さんに会いに行こう。きっと、為になる話してくれるよ」
「りさが、言ってた女の人?」と真理子が、尋ねた。

「そうよ!」理沙は、澄江の事を心から慕っていた。
やっぱり自分たちより人生の先輩だから、何かいい回避方法を知っているだろうと弥生を合わせることにした。

「わたしも、行くわ!いい?」「皆で行こうよ」と理沙がうれしそうに言ったのを
「迷惑じゃないかしら」と弥生は、自分の為に皆に時間をとらせる事が、申し訳なく思った。
が、今は、誰かに頼らなければ自分の意思じゃない自分が他者によって流されていきそうなのを止めて欲しかった。

「りさ、合わせてくれる?」
「そうね!きっと澄江姉さんなら、良い話してくれるよ。早い方がいいよね!」
3人は、高校生活も後わずかとなった。

冬の日の午後、こうして3人が、この公園で話す事の終わりが来ている事を感じながら、
時と共に成長して行く自分達を見つめていてくれた。

息付く全ての物で何時か公園の中で感じた風と香りを、振り返る時があるだろう、
弥生は、ベンチから立ち上がり歩き始めると、理沙と真理子も歩き始め公園を後にした。

風と香りの中で 57

寒い冬の夕暮れ時
「あははは!」真理子は、大笑いしていた。
「そこまで、笑うのかよ今時の高校生は・・・。」
大森は、何か気分がすごーく悪かった。

真理子が、大笑いしてることじゃなく、いつも自分が何かしようとする度に、
自分が思っている通りに行かず何処か中途半端になってしまうことが、
大森は自分の運が悪いとは思うこともなく、自分を見つめると自分が嫌になっていた。

それは、自分にしか判らない弱さであり、何故、真実を聞かず沢田の言った言葉で、
撃沈した船の様に深い海の底に沈んでいかなくてはいけなかったのか。
情けなかった。

「ああーあ!」大森は、目の前に置かれたカレーライスを、おもむろに食べ始めた。
「それだけ、食欲もあれば、大丈夫だな。」沢田は、驚きながら呟いた。

大森は、目を閉じて顔を天井に向け何か考えているようなのを、
沢田は、真理子に、冷たいお絞りを要求して大森の顔に掛けるように指示して、
真理子もそれを受けて、大森の顔にすばやく掛けた。

「わー!冷てー!なにするんだよ」と慌ててお絞りを剥ぎ取りそこにいた真理子を見た。
「何するんだよー」と情けない声で言ったのを、2人は、又大笑いした。

「真理ちゃんは、今年、受かったら遠い地で独り暮らしするんだぞ。大人だよ・・・。」
「何が、言いたいんだ。」大森は、食いついた。

「そうよ、たった1回位駄目だたからって次、がんばるぞーってなんないの?」
「なるかー」と真理子が言ったことに返した。

そんなんじゃないんだ、駄目でもいいでも、自分は何も言えなかった、
たとえ隣に誰が居ようと彼氏かも判らない、幼馴染だったかもしれない、何も聞きだせず・・・。
そんな、気の弱い自分が本当に彼女のことを愛してますなんて言えるのか、
ちくしょー、と自分を責めた「真理ちゃん、大森を癒してやんなよ。」と、
沢田は、思っても居ないことを言って更に大森を追い込もうと考えた。

「無理、こんな弱虫の1人よがりの人の面倒はみれないわよ」
「おいおい!孝ちゃん何、言い出すんだ」と慌てた。

「てっきり、真理ちゃんと出会ったから、本当は告白を止めようと思ってたんじゃないのか」と沢田は、釜賭けをした。

「馬鹿な事を・・・。」人の目に映る心は、意外と当たってたりするもんだが、
大森は、無意識の内に真理子に気を引かれていたのかもしれない、
その純粋な気負いをしない女性が、いつの間にか仲良くなり自分でも気付かない自分がいるのかもしれない。

「私はねー、いつも一緒に来るあの人がタイプかなー!」
「誰!」大森が尋ねると「先輩の事だ」と沢田は、声が大きくなった。

「うそー!」と2人は揃って言った。
それは、意外な展開だぞ、との思いと、又撃沈かよと情けない思いが入っていた。

「うそ!」と真理子は、肩を窄めながら、舌を出して赤くなった顔に気付かずに、奥に言ってしまった。

驚きの顔をしたまま2人は、冷たい水を飲んだ。
日の暮れた。寒い夜に冷たい風が小さな渦を巻いて抜けていった。

風と香りの中で 56

可奈は、机に広げた便箋を見つめたままどれくらい時間が過ぎていったのか、
広げた便箋の横にはペンダントが綺麗に置かれていた。

どうして?何度も胸の中で思案しながら、何度も星一からの手紙を読み返した。

次第に怒りと共に涙が溢れて来ては、何がいけなかったのかとその怒りは自分にもぶつけていた、
酷いよね、嫌いになったとか、好きな人が出来たとか言ってくれた方がよっぽどましなのに、
じゃあ、何がいけないかったのか判んないじゃないのよ、

滲んでいく文字を、忘れるまでにどれだけ掛かるのか、可奈は、悔やむところは見当たらない、
むしろこれから2人で、いっぱい思い出を作って仕事も頑張って星一と歩んで行くのだと、
そして、良きパートナーとして生きていくことも決心していた、なのに何故、こんな手紙一枚で・・・。

話をして貴方の声を聞かせてよ。

悲しみは苛立ちに変わり可奈は、抑えきれない気持ちをベットにうつ伏せに倒れこみ、
何度もベットを叩いた気が済むまで溢れる涙が飛び散るほどに、そして、いつの間にか、静かに眠っていた。

乾かない涙の筋が窓から差し込む夕日に照らされ輝いているのを、
見る者は誰も居ない静かな部屋の中で、子供のように寝息を立てていた。

「可奈、可奈、可奈・・・」誰かの呼ぶ声が聞こえる、真っ白な箱の中で笑っている誰かが、
手を差し伸べ可奈は、そっと手を差し出してその手を掴むと、とても柔らかく暖かかった。

「貴方は誰?」可奈は、良く見えない姿を、目を凝らして見続けると
「僕だよ!僕を作ってくれてありがとう!」可奈は、驚いた。

それは自分が作った星一に似せた人形だった。
「大丈夫かい!」可奈は、不思議な顔をして「どうして?」と話しかけ
「心配だよ、君の事がね、僕を折角作ってくれて、でも、今日からズット一緒だね」
と、笑った顔が星一だった。

「うそでしょ、だってあの手紙・・・。」
「可奈の心は、可奈の人形の中にあって彼はそれを捨てたりはしないよ。」
「うん!」
「僕は、可奈の傍に居て可奈が幸せになるのを見守ってる。

だから、元気に生きて行くんだよ辛い事は、これからも沢山有るけど生きていくんだ、
彼とは人生のほんの数秒の出来事で、可奈の為に現れた。

そして、僕を作ってくれたんだ。
何故だか判る?今の、可奈のためだ・・・。
きっと、いつか判るよ、だから僕を、大切にしてよね。

可奈の人形にも伝えて置くから・・・。」
「そんなこと出来るの?」
「もちろん、僕と彼女は同じ心から生まれたんだもの・・・ね」
「うん!ありがとう」
「元気が出てきたかい、もし、大丈夫ならここまで来てよ」
もう一度、この手を掴んでよと、可奈は、届かない手を追いかけて更に体を伸ばした所で、ベットから落ちて目を覚ました。

すぐさま、辺りを見渡しあれが夢だったと気付くまでに時間は掛からなかった。

力が入らない状態で、ベットにもたれ掛かり目を閉じてあの人形の言う通りだよねと、
目を開けると机の上の人形を両手に持ち、そっと胸に近付け押し当てた。

「ありがとう!」と微笑んだのだった。
そして返事の手紙を書くことにした。