「風と香りの中で」カテゴリーアーカイブ

風と香りの中で 25

大晦日の朝は、静かだった暫くするとその年最後の日は、
二度と来ない一日で次の日になれば年数がひとつ増えるだけなのに、
何故か凄く大切な日に思えてしまうんだよなっと星一は、
年越でスキーに行くことは年中行事の一つになっていた。

弘幸と行き始めた行事も今年は、妹の瑠璃子が友達を誘って来ることになった。
まだ中学3年で、大事な受験を間近に控えてたのに少し休憩などと言って、
付いてくることになった。

予定通りの時間に弘幸は婚約者の晴香を連れてくると会社の後輩で沢田と大森も来ていた。
「そろそろ、行こうか」と、レンタルしてきた七人乗りのワゴン車に荷物を、まちまちに詰め込んだ。

「疲れたら交代するからと」弘幸は、星一に運転を任せると奥へと入った。
「3時間位で着くだろうと・・・。」後ろを振り返り、車内を確認するとそー言って車を走らせた。

風と香りの中で 24

星一は、大晦日から仲間同士でスキーに行く為にその用意で忙しく、
初めてスキーをする妹の瑠璃子のスキーウエアを、瑠璃子と一緒に出かけ帰りに星一は、
瑠璃子と一緒に小さな食堂に入った。

「加奈さんは、誘わなかったの?」妹は、もしかすると義理のお姉さんになる鈴木加奈を既に受け入れているところがあった。
「いいんだ!多分仕事だろうし?」と、お品書きを見ながらボソッと言った。

「仕事かどうかも聞いてないの?」瑠璃子は、不思議に思ったのか
「お兄ちゃん、もしかして・・・。」言いかけたが止めて、
店の中に掲げてあるメニューを眺め「私、オムライスでいい」と星一に告げた。

「すいません!」と、忙しくしてる店の人に声を掛けた。
「まり!ちょっといい、お客さん」と、注文を聞くように言った。

あまり広くない店は一杯の人で、注文を取るようなウエイトレスらしき人も居なかった。
真理子は、忙しい年末は毎年家の手伝いに出ていたが、この日は予定以上にお客が多かったのだ。

注文を取りに来た真理子に、この店のお勧めの定食とオムライスを頼んだ。
真理子は、その愛嬌のある笑顔で2人を見て微笑んだ。

風と香りの中で 23

クリスマスが過ぎると、一気に年明けに向かって街並みも正月ムードになっていた。
すっかり良くなったのか、喫茶ナイトには姉妹がいつものように働いていた。

40度の高熱は辛かっただろうと、店のマスター達に言われると
「死ぬかと思いました」と弥生は苦しかった時のことを思うと、
やっぱり健康がいいと いつもより張り切ってる様子が伺えた。

クリスマスの時に渡そうと思ってプレゼントを用意してた男達は、
香月姉妹が店に来るや否やまちまちに、支払いでレジに行った時に手渡したり、
注文の時に渡したりとその度に、2人はうれしそうにお礼を言っては受け取っていた。

「まあ!、判らんでもないがな。」マスターは、頭をかしげながら「2人は、どうなんだ?」と尋ねた。
「どうって?」2人は、ほぼ同時に返した。

「お気に入りさんでもいるのかってことよ?」と、ぶっきらぼうに言った。
「判んない?」と、かすみが言うと弥生は「いい人がいればいいけどね」と高熱から覚めた死ぬ思いが、
人恋しくさせていたのか何処か淋しさが見えた。

明日は大晦日なので、早い時間に閉めるぞ!帰り支度の2人は、
ハイ!とまた2人同時に返事をして帰ろうとしたところに大きな包みを持った男と、
その連れの者がレジに行った。

弥生に、ズット視線を送ってた男達は2人が帰るタイミングを見ていたのだろう。
弥生は、レジに立つと、その手にした包みを渡しながら何か話してた。

マスターとかすみには聞こえなかったが、そのお客が帰って行くと弥生は、
かすみを手招きで呼んで帰ろう!と言って2人は、マスターに頭を下げると店を出て行った。

店から家までは10分と掛からない距離をいつも2人揃って歩きながら帰っていった。

「皆、優しいね今日も、お姉ちゃんそんな大きなもの貰っていいなぁー」と、
本当に羨ましそうに言ったのを、どうして受け取ってしまったんだろう?
と弥生は、胸の内で悩んでいた。

「どうしたの?」何も言わない姉が気になった。
そのまま、弥生は、一言も話さないまま2人は家に入っていった。

風と香りの中で 22

理沙と澄江は、テーブルいっぱいになるくらいの、料理を運んでいた。
バイキングとは、何とも都合が良く、食べたい物を食べるだけ持ってこればいい、
2人は妙にはしゃぎながら、数時間前に知り合ったとは思えないくらい息が合っていた。

人とは不思議なもので、凄い対人症か人見知りの性格でなければ、知り合いもいない、
同じ空気の環境の中では打ち解けてしまうのかもしれない。

理沙より澄江は、それなりに社会に揉まれ人生経験の先輩でもあった
「せやから、一緒に来る事になってたんやろ、それが来いへんってことは、
りさやんには気があらへんってことや」と、唐揚げを頬張りながら言った。

「うーん!」理沙は、取り掛けたポテトフライを止めて、小さく唸った。
「せやろ、好いてはったら絶対一緒に来るしな、こんなに待たせへんて・・・。」
続け様に唐揚げを食べて「これ美味しいで」と理沙に進めた。

そして、ビールを飲むとそれはまるで、大阪のおっさんが若い者に説教でもしてるようにさえ見えた。

理沙は、その言葉も信じたくなかった「きっと、きっと何か別の用事でも出来たのかもしれないですよ。」
自分に言い聞かせるように言ったそんな理沙を、澄江は何て健気で純粋なのかと、
自分もそう純粋に信じてきたそんな時があった事を思い浮かべると、何だかしんみりとしてしまう、
しかし澄江は信じた全てではないが失恋も、裏切りも辛い経験を重ねていた。

理沙に、何を訴えようとしてるのか判らないが、
でも真実を知らなくては傷つくのは自分自身なのだからと
「せやったら、何で連絡もして来いへんのや、大切な相手やと思うとったら、
嫌われんように心配させへんで、男ってそんなもんや・・・。」

澄江は、もう一口ビールを口にして続けた
「いい方に考えるのはエエ事や、でも男に関しては別や最初は優しいけどな、
豹変して別の顔を見せるようにもなる男も居るさかい、何でか判るか・・・
まあ、それはエエは」とまた一口飲むと、
煙草を取り出し吸い始めて、尚も続けた
「世の中には、りさやんに合ったエエ男はぎょうさん居るで、
そんな、誘っておいて来いへん男なんて最低やで、ほんま・・・」
澄江は、理沙に遠い自分を重ねていた。

人は、環境と関わった人に寄って変わって行ってしまう、
それは性格でなくきっと生き方がだろう。

理沙は、澄江が話すその様子を見ながら何か、暖かいものを受け取った。
「澄江さん、何か・・・そうですよね。信じたくない事実が真実なんですよね?」
理沙は、澄江と出会ったことを、この時はうれしく思った。

が、理沙の向かう方向が、この時すでに決められて行った事は、澄江も理沙も判らなかった
「りさやん、理解出来てるやん」と澄江は、理沙に煙草を進めた。

2人は更に息が合っていき、いつの間にか理沙は、
煙草を吸いながらオレンジジュ-スの様なカクテルとアルコールも飲んでいた。

2人の楽しそうな話し声は、周りの人達も楽しくさせていた。
パーティが終わると2人は、寒い夜の繁華街へと消えていった。

風と香りの中で 21

駅に向かう、冷たい風が吹く雑踏の中二人は、手を繋ぐ事もなく並んで歩いていた。

星一も、加奈もお互いの気持ちを知る由もなく
「楽しかったよー、久しぶりに家庭の雰囲気の中で、食事が出来たのやっぱりいいよね、家庭って」
うれしそうに言った加奈に「そっかぁ」と星一は、あまり気のない返事をした。

「・・・・・。」加奈は、星一をチラリと見て言いかけた言葉をやめようとしたが、
「何かね、せいちゃん楽しくなさそだね、何かあったの?何処か、具合でも悪いの?」と心配そうに言いながら、
星一の気のない話し方に加奈は、家を出たときから少し気になっていた。

「悪いところか、別に・・・、頭、そうだよ、俺、頭悪いから・・・。」
と小さく笑って加奈を見たが面白くないよと返した。

「本当に何処か悪いなら言ってね、これでも看護婦見習い、
でももうすぐ準看だよ、教えてね先生にも聞けるからね」とさらに気遣った。

そんな優しい加奈の気遣いや、純粋な思いやりが今の星一には辛かった。
出会いのタイミングなのか、あの夜合うこともなかったら、
そうあのウエイトレスに出会ってなかったら、星一はきっと加奈を、抱きしめただろう。

「大丈夫だよ、きっと」その言葉は何を意味したのか。
切符販売機が見えると、指をさして加奈に教えた。

そんなに、遅い時間でもないのに人もまばらで、楽しそうな男女が、
明らかにケーキが入ってるだろう袋をもって改札を抜けていく、
傍らで星一は何処を見るともなく加奈を待った。

小走りで戻ってきた可奈は「はい!」と、小さな人形と入場券を一緒に差し出した。
「何これ?」と受け取り、紐の部分を摘んで目の位置に掲げた
「それ、私が作ったせいちゃん用のお守り、家族の人に見られると恥ずかしいからね、そのモデルは私よ、似てる?」
そう言って少女のように少し照れながら、微笑んだ。

「ふーん、上手だな加奈より、可愛いし」と見つめてると、星一は加奈に買ったペンダントを思い出した。
「あっ、そうだ忘れてた」「なに?」加奈は、不可解に星一を見た。

「車の中に、加奈に渡すプレゼントをコンソルボックスの中に入れたままだ、とって来るよ!」
と行き掛けた星一に「今度でいい!今度会った時に、今日は、気持ちだけ貰ってくね」と次に会う約束を、
無意識にさせたのだった。

「今度、会うときの楽しみね」と微笑んだ。
「それと、せいちゃんモデルの人形も作ってるから、出来たら渡すね」加奈は、うれしそうに続けた。

「大切にしててね」「わかった!」小さく手触りのいい、その人形は笑っていた。
二人は、改札を抜けホームに行くと人はまばらで、北風が二人を吹きぬけると同時に身を屈めた。

電車が来る放送がホームに響き「せいちゃん、今度休みが合ったとき何処か旅行でも行こうか?」と加奈が、
星一の反応を見ながら尋ねた。

電車が入ってきた音が「そうだな、それもいいかも」と言った星一の声が重なった。
電車に乗り込む加奈の後姿が、何処か淋しそうなのを星一は気付くこともなく向きかえった加奈は、
ドアが閉まる前に「泊まりで、行こうね」と小さく手を振った。

ドアは2人の間を、一瞬に閉まり互いの息遣いも、香りも切り離し加奈の乗った電車を追う事もなく、
星一は深くお辞儀をした。

星一は、何か迷っている心を既に決断してるかのように、
自然と加奈に向かってお辞儀をさせたのかもしれない。

「今なら、何も傷つけることもないよな」!と自分に言い聞かせているように、
誰もいないホームにまた冷たい北風が吹きぬけた。