「風と香りの中で」カテゴリーアーカイブ

風と香りの中で 30

鉄次は、姉の理沙をまじまじと見つめ「おねえちゃん、テレビに出てる人みたいだった!」と、久しぶりに帰ってきた理沙に驚き、
楓もズット理沙の変わってしまった髪を見ては「赤いよ?」と、
指をさすと鉄治が「赤くない!茶色だ!」と理沙の髪ばかり見ていた。

今でこそ、髪を染めるのは個性でありファションとしてさまざまな色が売り出されているが、
時代とは不思議なもので、髪を染めているだけで不良と見られていた時代は確かにあった。

そして数十年経って当時の女性たちが大人になり親になりその時に出来なかったことを、
着実にファッションとしての位置を作り上げてしまった。

だが、理沙は、不良だなぁなどと言われる時代の中で気にもせず、
澄江の髪の色を素直に取り入れただけだった。

「綺麗でしょ」何もわからない、まだ小学生の鉄治と楓は「うん。」と大きく頷いた。
大きな瞳で理沙を見ながら

風と香りの中で 29

例年になく大雪になった山間部は、
途中のチェーン規制により星一は大森と2人でチェーンを付けるのに四苦八苦していた。

「先輩、どうですか?」と、チェーンなど付けた事のない大森は、只、見ているだけで何も出来ず、
時折吹き付ける風に震えながら見ていた。

「もう少しだよ、大森後ろのタイヤを見ててくれ」と、車に乗り込みバックさせた。
「オーライ オーライ、あっストップ」大森の大きな声で、奥で寝ていた弘幸は目を醒ました。

「おお!何してんだ」熟睡していたのか、出かけに疲れたら交代するなどと言っておきながら
晴香と寄り添いながら眠ってしまっていたのだった。

もちろん星一と助手席の大森以外は皆、気持ちよさそうに寝てたのだった。
特に二人は気にすることもなくここまで来た。

弘幸が起きると妹たちも起きて何が起こったのかと辺りを見渡し「着いたの、お兄ちゃん」と、
目を擦って曇り硝子を手で拭くとそこには大森が立っていた。

「何してんの、もりさんは?」と呟いた。
星一は、もう少しだからと車を降りて最後の仕上げをして、暫くして2人が車に乗り込み再び走り出した。

既に辺りは雪の壁が道路沿いに出来て瑠璃子とその友達は、
始めて見る景色に驚き「わーあ、凄いね!雪ってこんなに積もるの?」
2人は、まん丸な目をして窓を拭きながら暫く眺めていた。

「そろそろ着くけど、もっと驚く景色がみえるさ」と慎重に運転しながら、瑠璃子達を期待させた。
やがて、車は、ホテル専用の駐車場に入ると既に多くの車が止まっていた。

中には何日も滞在してるだろう車は積もった雪で原型がわからないくらいになっている。
ここ3年来ている事で迷うこともなくスムーズに無事到着した。

既に昼を2時間も過ぎていたが、どんよりと曇った空には厚い灰色雲が辺りを暗くしていつでも雪を降らすぞ、
そんな感じが冬の独特の寒さをも醸し出していた。

「早いところ、移動しよう。何時降りだすか判らないからな」
星一は、そう言って車から降りると後ろに周り荷物を取り出していた。

瑠璃子達2人はそれ処でなく、始めてみる大量に積もっている雪を丸めて投げ合っていた。
すると瑠璃子は兄に向かって投げたのが見事に星一の背中に当たり、いきなりの衝撃に何だ!
と振り向いたのが運悪く友達の町子が続けて投げた雪の塊は、額にゆっくりと当たった。

わーあ!とびっくりしたのと冷たい衝撃で奇声を上げた星一を弘幸たち一同はそれを見てたのか、
辺りは皆の笑い声が響いたが、星一は笑えなかった。

「ごめんなさい!」まさか、当たるとも思っていなかった町子は恐縮そうに星一に頭を下げ、
瑠璃子を見ると2人は、舌を出して肩をくすめた。

「せいちゃん、注意不足だな!何が起こるか判らないご時勢だ常に回避出来る瞬発力が必要だよ」と、
尚も笑いながら言うと「出来るか!」と、雪を拾い両手で丸め始めた。

皆は、それぞれ顔を見合わせ、やばいかもと取り出した荷物を持ってその場を離れた。

風と香りの中で 28

弥生は、迷っていた。
坊主頭で顎髭の男は、段々と執拗に半ば強引に誘いを掛けてくるようになっていた。

強引な男に女性は弱いなどと本気で思っているのか、
1度一緒に、出かければ何とかなると思っていたのか?
弥生は、まったくのタイプではなかった。

しかしそれは外見だけの話であって、接触が多ければ、
自分のいいところを見せられると優しいところに女性は引かれるなどとも思い、
気に入った女性にアタックしていくのだろう。

だが、大抵の女性は気のない相手にはまず接触を喜ばないから、
何度、誘いを掛けてもハッキリ断るのだろうが、断れない女性も確かに多いのだろう、
1度だけならいいかなぁなどと誘われて、気が付いたら何でこの人と付き合ったのだろうと、
時と共にその思いは強くなっていく。

弥生も、断ることが出来ない性格だったのだろう。
「妹さんと俺たち2人で、遊びに行こうよ。」何度となく、言われると行かないといけないのかなぁと、
暗示の様にもなって行く「どうしよう、高価なものまで贈られて・・・。」

別に、物が欲しかった訳でもない。
その、ブランド品のバッグを前にして長い間ベットにもたれ悩んでいた。

「お姉ちゃん」中々部屋から出てこない弥生の様子を見に来たかすみは、姉の部屋に入ってきた。

「如何したの、そんなに神妙な顔して」と、弥生の顔を伺った。
「ううん!、別に・・・」弥生は、軽く首を振った。
「最近、あの人こないねぇー、もしかして・・・。」
「あの人?」弥生は、誰のことなのかと顔を上げるとかすみを見た。

「たまにしかこない、可愛らしい男の人よ?何となく判るんだよねー!お姉ちゃんタイプでしょう」とうれしそうに、
弥生の返事を待った。

「誰よ!」弥生は、誰だか判っていたが素直には答えなくなかった。
「いいの いいの、どうせちゃんとした彼女が居て幸せだと思うよ。」と、
かすみは姉の本音を聞きだそうとしてわざと、動揺させようとした。

「何で、そんなこと判るのよ!」弥生は、
かすみのその言葉に誘い出された事に気付かず
「聞いてみないと判らないじゃないの?」と言ってしまった。

「聞いてみるの?」かすみは、瞳孔を大きくして投げかけると
「まさかねー、お姉ちゃんには聞けないよ!」とハッキリ言った。
「じゃあ、かすみは聞けるの?」と反撃した。

「いいの、私が、それを聞いて彼女居なくてね、アタックしてもいの?」
かすみも、悪くない人だよなと思っていたことを告げてるようにニコニコしながら弥生を見ると弥生は、
意外と行動的な妹ならそうしそうで余計なことは言えなかった。

話を変えようと、
無意識に「あのさ、いつもの坊主頭さんがね、かすみも一緒に4人で遊びに行こうよって、何度も誘われてるのどう?」
「それで、最近へこんでたの?」とかすみは、姉の元気のない様子が判った。

「その、バックも貰っちゃったしね・・・。嫌なら、それ返して断ればいいんじゃない。」と簡単に答えたが、
姉の弥生は優しいから嫌なことでも引き受けるところがあることを、かすみは良く知っていた。

「それができたらね・・・。」と俯いて「1度くらいならいいかなぁと・・・ね、かすみも来てくれる?」
「もしだよ、その一度が大変なことになったら・・・。」かすみは、良からぬ事を思った。

「大変な事って?」弥生は、薄っすらと判ってはいても「まさか、だよね」と思ったが、
男の中には手を付ければ自分の物だなんと、女性を物として思っている者も居るから、
これまた、厄介な事で、まさに男と女の不思議な関係だろう。

かすみは「いつ?考えてみるね」そー言って部屋から出て行った。
あーあ、年も明けてお正月からこんなんじゃ、今年は、最悪かもなーと、1人になった部屋で小さく呟くとそのまま横に寝そべった。

風と香りの中で 27

理沙は、クリスマスの日から友達の家に暫く寄せてもらい、
大晦日には帰ると母親に連絡をして6日振りに帰る電車の中で、
いつも見ている景色が何処か違って見えていた。

それが何なのかは判らず、6歳も年の離れた澄江から教えられたことは、
理沙は全てが始めてのことだった、クリスマスが過ぎたケーキにはなりたくないと、
何故か笑えた。

そんな澄江が、時々淋しく見えたり、パーティーには彼氏に誘われていたが、
その前に別れたから暇なんで1人で来たとか・・・。
時々何処からか来る電話では、真剣な眼差しと凄く丁寧な言葉遣いが、理沙は驚かされた。

その度に「しょうもない男や・・・。」と、呟くとベットに伏せこんでしまう様子も、
どこか切なさが伝わってきた。
だからなのか澄江が理沙に髪を染めてみるか、化粧の仕方を教えようかと言われるがままに澄江に従った、
その時の澄江のうれしそうな顔が、理沙の胸に焼き付いていたのだった。

「りさやん、明日帰ったほうがええな、1度帰って又何時でも来いや」
理沙は、母親と弟と妹の4人暮らしで父親は、
中学の時に居なくなり、如何してなのか子供ながらに判っていた。

毎年、弟達の面倒を見て大晦日から、家族4人で三が日迄過ごしていた。
家族を省みない父親は、時々大声で母親を怒鳴ったりしていた。

あれから数年家族はそれなりに楽しく過ごしていた。
「ただいま!」と入って行くと、弟が急いで出てきて「誰か、来たよーママー!」と、
弟の鉄治は母親を呼んで、玄関に立っている女性、いや姉の理沙を、まじまじ見つめ、
「あっ!お姉ちゃん?」と首をかしげた。

出てきた母親と妹の楓は初め誰か判らず、「理沙!」と驚き「何それは?」と声が少し上づっていた。
「エヘへ。」と照れ笑いしながら、中に入っていくと、家族の皆は呆然としていた。

風と香りの中で 26

香月姉妹は、昼から喫茶ナイトに来ていた。
さすがに人はまばらで暇な時間に、お雑煮の作り方を店のママから教えてもらっていた。

明日、両親に作ってあげるときっと喜ばれるわね。
と、特に弥生に念入りに教えた。
かすみは、覗き込みながらも「うん、うん」と聞いていたが、本当に判っているのかは知れたところでなかった。

カラン、カランと店の扉がお客様が来たよ!と、知らせた。
姉妹の手が離せない様子を見ると、ママが店に出て行った。
「弥生ちゃん、いつもの男の人達が来たよ!」と、ママが弥生の耳元で告げた。

「いつもの!」弥生は、それだけでは誰なのか判る筈もなかった。
かすみが、カウンター越しに店の中を見ると、坊主頭で顎髭の男と、細目で色黒の男が居た。

大きなプレゼントをくれたいつもの人だ、かすみは、進んでそのテーブルに注文の飲み物を運んだ。
「今日は、お姉さんいないの?」坊主頭の男が尋ねると「今、中で料理習ってるのよ」と、
厨房の方を見ながら答え、軽く会釈をすると奥へと入っていった。

「お姉ちゃんは居ないのかって、聞かれた」とかすみも弥生に小さく伝えた。
「あっ、つーい」何を動揺したのか持っていた小皿に、作った汁を入れすぎて落としてしまった。

物が割れる音は、店内に響き坊主頭の男は身を乗り出して中を覗き込み、
弥生と目が合い手招きをして呼んでたのだ。